土屋が口癖のように言う「同じ山には2度も登らない」という言葉を覆してやろうと思いました。何度登ろうが、季節やコース、気象条件でまったく別の山のように楽しめるんだと。
選んだ山は唐松岳。
前回は8月に登り、雨に打たれ、正直なところ酷い目に遭った山でした。土屋にしたら2度と登りたくない山のひとつに違いない。
自分自身、積雪期の八方尾根はスキー以外で訪れることもなく、リフトより上に登っていくのは初めて。
登山序盤から左右に見える白馬三山と鹿島槍ヶ岳に居ても立ってもいられず、1時間ほど経ったところで土屋を捨てました。
気が付くと、土屋からLINEが来ていました。
「ダメです。途中で帰ります。」と。
残念な気持ちながらも、その時点で山頂まで5分ほどの地点。
ひとりだけでも山頂を踏もうと思いました。
人が多く風の強い山頂から剣岳を眺め、山小屋を見下ろすと、見覚えのあるジャケットが登ってくるのが見えました。
土屋でした。
LINEではくじけていた彼は、唐松岳の山頂に着くと嘘のような笑顔で感情を炸裂させていました。