唐松岳を経由して五竜岳への縦走
長野オリンピックの競技会場にもなった八方尾根は、麓からゴンドラとリフトを乗り継いで1,850mの地点まで登ることができる。
唐松岳近くの山荘まで3時間足らずで歩けるので、五竜岳へも比較的簡単に歩くことの出来るルートになっている。
季節は9月のシルバーウィーク。
三連休を利用しての登山者が多く訪れている。
唐松岳へと登る八方尾根スキー場のゴンドラアダムに車を停める。
ゴンドラ乗り場では、朝7時半からの運転開始にもかかわらず、早い時間から車中で待機している人や、テントを張って時間を待っている人がいた。
ゴンドラ駅周辺には1日500円ほどの駐車料金で停めることができる。
八方尾根のチケットは、ゴンドラ、アルペンリフトからグラートクワッドリフトの乗り継ぎ全て含めて片道1,400円。
15キロ以上の荷物を背負っている場合は別料金が掛かるので、チケット売り場の横には体重計が置かれていた。
今回、持っていった荷物はテントと着替えや寝袋、1泊分の食料を2つに分けて。重い方の荷物で14キロ強。
窓口で口頭の確認を受けてゴンドラの列に並んだ。
ゴンドラに乗り込んでドンドンと高度を上げていくのは、上を眺めても下を眺めても気持ちが良い。
ゴンドラからアルペンリフトに乗り換え、最後にグラートクワッドリフトに乗り、到着したところはすでに白馬の山並みが目線の高さ。
目指す五竜岳や鹿島槍ヶ岳も見える。
唐松岳への
リフトを降りてから八方池までは、ルートは整備された木道と、ゴツゴツの岩が転がる登山道のふたつに分かれる。
木道は八方池まで歩きやすく作られている。
登山道は歩きづらいけれど、尾根を歩くので白馬岳や北側の山を見ながら歩ける。
どちらも良さがあるのだけれど、本格的に登る気持ちで来ている人たちはたいてい登山道を選ぶようだ。
たしかにゴツゴツの岩が転がる道は歩きづらい。
とはいえ、白馬三山を始めとして不帰の険を眺められるのは良い。
右手にずっと見え続ける景色は堪らなくキレイで、左手にもチラチラと鹿島槍ヶ岳や、これから向かう五竜岳が見える。
遠い・・・そして大きい
歩き始めて50分ほどで八方池に到着。
白馬の観光ポスターには、かなりの頻度で写真が使われているスポット。
遠目に見て、ポスターほど水は青くない。むしろ緑色に見える。
持っていたイメージと違っていたために、「キレイ」という印象も受けないまま、池に近づき、カメラに収めるとポスターで見たようなものに似ている。
八方池は写真になってその美しさを発揮する。
唐松岳頂上山荘へ
八方尾根と呼ばれるあたりは、標高は2,000mを越えた程度。
一般的には森林限界の標高では無いのに、背の低い植物しか生えないのは、風や雨などの気候が激しいためだという。
本来、地表には出てこない蛇紋岩がゴロゴロしているのもそれが原因だという。
だからといって、まったく樹林帯が無いというわけではなく、進んでいくうちに木々に囲まれて歩くルートに変わる。
それまで良かった景色も見えなくなり、時間が経つにつれていつの間にかガスが上がってきて眺望は無くなった。
八方池から1時間ほど。
本来の森林限界に到着したようで、回りにはハイマツが広がった。
先には小高い丘のように丸く盛り上がった丸山ケルン。
唐松岳へは緩やかにルートが続く。
左右に広がっていた山々はどんどんと目線の高さに変わっていく。
唐松岳はまだまだ先だった
テント背負ってきたけど疲れました
登山開始から2時間半ほどで唐松岳頂上山荘に到着。
真っ赤な壁はガスが白く広がっても目立ちそうだ。
ここでの休憩は一人300円。
食事は中華丼・牛丼・ラーメン、どれも1000円。
あっさり塩ベースで、これが疲れた身体にはとてつもなく美味い。
そして、一緒に出してくれる1杯の水が嬉しい。
唐松岳からの牛首岳、五竜岳へ
目指す五竜岳へは、このルートの山場、牛首岳が聳えている。
牛首は、狭く高度感のある鎖場が続く。
鎖場を降りながら、400mほど高度を下げていく。
所々に注意を促す看板が見えた。
最初の看板でストックを仕舞って先へ進む。
先には五竜岳が見え、高度感のある鎖場からの山容はゴツゴツで迫力があった。
ここで力尽きるわけにはいかない
高度感のある鎖場が終わると、細かな石がガレガレとしている急な下り坂が続く。
落ちることは無いけれど、砂のような地盤と小さな石に滑って転びやすい。
どんどんと高度を下げながら、鎖の張られた岩場を進んでいく。
鞍部に向かって進むにつれて視界にはガスが広がって、景色は何も楽しめない。
ところどころ、とんでもなく斬れ落ちている崖が見えて、その迫力に声を上げながら、鎖場にやってくるたびにそっと歩く。
唐松山荘から1時間半ほどでようやく鞍部の底に到着。
樹林帯に入って、周りはもう木に囲まれている。
ここからは登るだけ。
唐松岳から五竜岳への行程の半分は過ぎている。
登り続けて行くと、周りを囲んでいた木々の背が低くなり始め、ガスの中にも景色が見えるようになった。
とっても山奥へやってきた実感が湧いてくる
五竜山荘がなかなかガスの向こうから現れない
五竜岳登山者がピークの五竜山荘
唐松山荘から約2時間20分で五竜山荘に到着。
山頂へ向かうのは明日の予定にして、ここでテントを張ることに。
とはいえ秋の最盛期。
すでにテント場にはスペースが無く、受付にも宿泊希望者の列。
テント希望者は受付前に場所を取るように指示を受けた。
小屋の方から入口の脇にテントを張るように指示を受けて、通路の一部を借りて設営。
歩行者も多いので、ペグも十分に刺さずに設置完了にした。
テントを張ってからも登山者が次々と五竜山荘を訪れる。
小屋での宿泊者も今日は多いらしく、聞いたところではひとつの布団に二人だとか。
暗くなってもとても賑やかで、外での会話もテントの中まで良く聞こえてまるで居酒屋のよう。
テントの近くを歩く足音のせいか、2時間おきくらいに目を覚ましながら、都度、夜空の様子をチェックした。
ガスっていた空は、10時過ぎには晴れ上がってきたらしく、月の明るい夜空が広がっていた。
おかげで星はあまり見えない。
日の出を待って五竜岳山頂へ
9月のこの時季、日の出予想時間は5時半。
通路に張っているテントは、6時までには撤去するようにとのこと。朝陽を目当てにたくさんの人たちが小屋の前に集まる。
まわりで手際よく片付けていく人がいたり、朝陽の見物者に囲まれてきたり、その中で慌ててテントを畳み、薄暗い中、見知らぬ人に正しいたたみ方を注意されながら撤去完了。
陽が昇り小屋の前に集まった登山者達も落ち着いたところで、撤収したテントなどの荷物を小屋の端に寄せ、必要なものだけで五竜岳山頂へ。
五竜山荘からは1時間ほどの登りの予定。
細かな石が転がった登り坂が続く。
目指す山頂は、すっかり明るくなって白く光っている。
振り返れば唐松岳を始めとした山々が朝陽に霞んで見える。
途中、牛首にも勝るとも劣らないほどの岩場があると聞き、用心のためにヘルメットを装着。
五竜山荘から30分ほど、最初の鎖場に到着した。
細かく亀裂の入った岩は、掴むとそこから割れ落ちそうで不安になる。
最初の岩場を通過すると、ほどなく雲海から浮かぶ鹿島槍ヶ岳が見えた。
正面に見えているキレットは本当にルートがあるのだろうか?と思えるほどに切り立っている。
五竜岳山頂
「牛首と並ぶほど」と言う人がいるくらいの五竜岳への岩場は、想像していたほどの険しさは無く、高度感はあるもののあっけなく通過。
鎖場が終わり、大きな岩がゴロゴロとする斜面を過ぎて、鹿島槍ヶ岳への北尾根ルートの分岐点に到着し、ようやく五竜岳の山頂を見ることができた。
北アルプス北部はもちろん、遠くに槍ヶ岳が見える。
北を見れば、白馬の山々、南には、槍ヶ岳と剱岳、そして鹿島槍ヶ岳などの鋭峰・岩山が立ち並ぶ。
五竜岳からの眺めはなんて贅沢なのだと感じた。
五竜岳からの下りは登ってきたルートを降りることになるので、よじ登った岩場を五竜山荘へ戻る。
400mほどの高低差があるので、降りる行程で変わっていく景色を見るのも楽しい。
日本海は見えないけれど、こんなに有名な山が一望できるのも贅沢だ
1時間かけて五竜山荘に到着。
再び荷物をまとめて下山準備。
五竜岳からの下りは遠見尾根へ
名残惜しくて五竜岳をジッと眺める。
テントを担いで鎖場を通って大変だった。
帰りのルートは遠見尾根を通って五竜とおみスキー場の植物園へ。
ゴンドラのあるアルプス平までは2時間半から3時間半の予定。
五竜山荘にある分岐点を過ぎ、小高い白山に登って唐松岳を眺めた。
歩いてきた稜線の眺めともお別れ。
後立山は岩のゴツゴツした山だという印象と、岩が切り立ってカッコイイということが分かった。
一気に高度を下げていき、あっという間にガスの中に突入。
眺望は全く無くて、ガマンの下山になった。
ひたすら下っては登りの繰り返し。
西遠見山、中遠見山・・・目安のチェックポイントでは必ずといって良いほど登り坂がやってくる。
距離も10キロ近くあるので、この長い長い下り坂はキツイ。
遠見尾根のルートは狭く急勾配になっているが、唐松岳からのルートとは違った五竜岳を見ることができて楽しい。
小遠見山手前の分岐点を過ぎると広く整備されたルートに変わり軽装の登山者も多くやってくる。
向こうに五竜とおみのリフトが見えたときほど安堵した瞬間は無かった。
とはいっても、リフトに乗るわけにはいかない。
動いていても、あのリフトに乗っては下山ができない。
正しいルートはテレキャビン。
アルプス平駅。
ゴンドラの乗車料金は840円。
10キロ以上の荷物がある場合は割増料金が掛かる。
車で来た場合、八方尾根からスタートして遠見尾根を下ると、登りの登山口とは離れた場所に下山する。
タクシーでは2600円ほど、JRなら最寄りは神城駅になり白馬駅まで160円、白馬駅からはバスに乗るか、タクシーで1200円という行程になる。
とはいえ、JR大糸線の下りは1時間に1本が良いところなので、予め時刻表は頭に入れて下山したい。