「裏銀座」野口五郎岳へ
裏銀座の入口は高瀬ダムから北アルプス三大急登のブナ立尾根を登る。
最寄りの駐車場は温泉のある七倉山荘。
広く100台は止まろうかというスペースに車を停め、ここから高瀬ダムまで約4キロ。
6時半頃からタクシーが随時運行しているのでこれを利用する。
2,000円弱でタクシーは高瀬ダムの上に停まる。
ダムの上には必ず1台が待機しているよう。
青々としたダム湖を眺めると先に稜線が見え、おそらく烏帽子岳を過ぎてから歩く三ツ岳への稜線だと思われた。
ブナ立尾根へはダムの上を西側のトンネルへと進む。
周辺の砂礫が崩れているため、ダムが埋まるのを防止する大型車両が通るためのトンネル。
手摺に触ると土埃が付いているようで、手袋が真っ白になった。
トンネルを過ぎると、吊り橋にさしかかった。
揺れるので足元に注意しながらしばらく砂礫のルートを歩く。
木の中を抜け、再び砂礫に戻り、いよいよ裏銀座へと入っていく。
裏銀座へ
道標を目当てにしてルートへと入っていくと、さっそく狭い急登が始まる。
ここから約1,400m。
烏帽子小屋まで続く登り坂。
10〜20分ごとに12番から1番まで振られた板が立っているので、それを目安に登り始める。
いきなりの急登は、まずは工事用の足場で建てられた階段。
幅が狭く揺れることもあるので、1名ずつ登るように注意書きがされている。
さすがの急登でルート横の斜面は転げ落ちそうな角度。右手には真っ白な岩壁が見える。
10分も登ると先に稜線が見えた。
烏帽子岳から北へと続く南沢岳、不動岳。
真っ白な稜線が見えると長い急登の中でもテンションは上がる。
苔が生し、緑の深い急登を番号に沿って登っていく。
階段のように整備されたルートは、場所によっては岩が露出していたり木の根がびっしりと生えていたり。
とくに危険な場所もないので、足元に注意をすれば登ることは難しくない。
ただただ斜面は急で長い。
休みながら登り続けること約3時間。表銀座の稜線がハッキリと見えるようになってきた。
高瀬ダム頭上の唐沢岳から餓鬼岳。
雲の中に燕岳から大天井岳。
見下ろせば七倉ダムと大町市街が見える。
高瀬ダムから見えていた稜線も間近に大きい。
登り続けた急登も1番を過ぎると緩やかに変わる。
木が開けると北側の山並みが見える。
蓮華岳や針木岳、その向こうには鹿島槍。
烏帽子小屋に到着
烏帽子山荘への到着はスタートから3時間20分だった。
烏帽子岳の南側にある烏帽子小屋は山頂まで約20分。
薬師岳や赤牛岳が眺められる景色の良いところに建っている。
小屋の前にはイワギキョウが多く群生している。
花の最盛期にはベンチに腰掛けながら紫の花と稜線が楽しめそうな小屋だった。
烏帽子小屋から野口五郎岳へは、深い緑の急登から一変して稜線のザレ場を歩くルートに変わる。
小屋をあとにし、テント場を抜けていく。
烏帽子小屋のテント場は標も控えめで、油断をすると迷ってしまうので注意。
稜線から三ツ岳へ
稜線に出ると一度に景色が開ける。
目の前には三ツ岳が大きく聳え、急登を登って気が抜けたところに、あの山を越えると思うと気が引ける。
左を見れば表銀座。
その下には高瀬ダムの青い湖が見え、あの場所から登ってきたのだと感じられる。
右側には赤牛岳。振り返れば立山が大きく聳えている。
緩やかに三ツ岳へと続くザレ場を歩いて行く。
どこを見ても気分が高ぶるような景色が続く。
1時間ほどでだんだんと勾配がきつくなっていく。
三ツ岳の急登を登り、東峰に到達するといくつも重なった稜線が見えるようになった。
三ツ岳を過ぎて野口五郎岳を目指す
三ツ岳の3つの峰を巻くようにトラバースしてルートが続く。
3つめの峰の鞍部では、お花畑ルートと稜線ルートの分岐。
どちらを歩いても良いところだけれど、山頂を巻くようにして続くお花畑ルートを選択。
天候が良ければ、体力に応じて稜線ルートも良い。
野口五郎岳へ稜線を歩く
三ツ岳を過ぎると、いよいよ野口五郎岳が見えてくる。
稜線のルートは長く続き、大きな岩が目立つようになる。
遠くには水晶岳の2つの峰。
折り重なるような稜線に目を奪われる。
ゆるやかにアップダウンを繰り返し、徐々に高度を上げながら野口五郎岳へと近づいて行く。
眺めが良いだけに近く見えるピークまでも歩いてみると時間が掛かる。
野口五郎岳の山容がなだらかなだけに目安にもしづらく、小屋もなかなか見えないのでとにかくルートが長く感じられた。
小屋まで「500m」。
ペンキで岩に書かれた字を見つけると、斜面の角度はキツくなった。
通常であれば何でもない距離と角度でも、高瀬ダムからの急登を登ってきた足腰には堪える。
丸い砂礫の峰を越えると、降りたところに青い屋根を見つけた。
野口五郎小屋に到着
野口五郎小屋は山頂まで約20分ほどの直下に位置している。
風の強いところのようで、もともとあったテント場は2004年に強風のために廃止した。
縛り付けていたドラム缶が風でテント場に落ちたためだとか。
燕岳の西側に位置し、表銀座の稜線が眺められる。
少し登れば水晶岳。
北側には立山と後立山が見える。
星空や朝陽の見やすい場所なので、小屋の宿泊でも十分に景色を楽しめる。
登山口からは約5時間43分。
烏帽子小屋から2時間20分ほどでの到着だった。
野口五郎岳の山頂へ
野口五郎小屋を後にして山頂を目指す。
稜線に出ると青空の下、水晶岳が印象的に見える。
野口五郎岳の山頂
緩やかな坂を上り、ガレ場を過ぎて約10分。
野口五郎岳に到着。
高瀬ダムからは5時間55分。
山頂からの眺めは絶景で、槍ヶ岳が大きく映ることはもちろん、その穂先へと続く稜線が一望できる。
水晶岳から鷲羽岳。
三俣蓮華岳など北アルプスの奥地。
遠く乗鞍岳や笠ヶ岳。焼岳が低く控えめに見えるのが印象的だった。
目を移せば大天井岳の大きさが印象的で、槍ヶ岳の後ろにある前穂高の尖った山容に険しさを感じられた。
振り返ると後立山と白馬三山。いつまでも眺めていたいと思う景色だった。
裏銀座から南真砂岳へ
下山ルートは湯俣温泉を経由して高瀬ダムへ。
野口五郎岳の山頂から水晶岳方面へ下り、南真砂岳へと分岐をする。
砂地のハイマツの中をトラバースして標高を下げていく。
その間、槍ヶ岳と折り重なる北アルプスの稜線を眺め続ける。
南真砂岳へと続くルートは狭い尾根部分もあり足元には注意が必要。
足を踏み外せば深い北アルプスの谷閒に転落する。
野口五郎岳からは約1時間ほどで南真砂岳に到着。
槍ヶ岳に少し近づき、周囲の山が高くなった。
南真砂岳からの下り湯俣岳
南真砂岳を過ぎると下りの急坂が始まる。
経由する湯俣岳との鞍部の低さは転がり降りるような印象もある。
ところどころ狭く足元には気は抜けない。
徐々にハイマツは背の高い木に変わり、樹林帯へと入っていく。
急で長い下りは40分ほど続く。
鞍部に着くと今度は登り返し。
急座かを下り続けた足には、20分ほどの登りが堪える。
水の通り道のようになっているルートを進んでいく。
湿度が高い場所のようで苔が生し、2つの池があった。
約1時間で湯俣岳に到着。
山頂とはいっても、とくに眺望も無く木に囲まれた狭い場所だった。
湯俣温泉へ
さらに急坂は続く。
約2時間で1,000mほどを降りていくルート。
木が深くなったので、石と砂の硬い地面から木の葉が積もった柔らかい地面に変わり、足元には優しくなったものの、この長い下り坂は忍耐力も必要。
ルートの周りには笹が目立つようになった。
1時間ほど下ると水の流れる音が聞こえるようになった。
真下には青い川の流れが見える。さらに1時間下ったところで槍ヶ岳の展望台に到着。
展望台とはいっても山頂から見た眺望ほどの迫力は無いので下を流れる川を眺める。
200m以上の高さがあり、切れ落ちた岩壁は上にいる思うと落ち着かない。
展望台から20分で湯俣温泉の晴嵐荘に到着。
野口五郎岳からは3時間40分の下り坂だった。
晴嵐荘は温泉に入ることができ、テントも張れるためアウトドアにはちょうど良さそうな場所だった。
ベンチで休憩を取ることができ、トマトやキュウリが水で冷やされている。
高瀬ダムからの長い長いルート
晴嵐荘から高瀬ダムへと続く長いルート。
全行程の3分の1はこの平坦なルートになっている。
晴嵐荘から高瀬川を渡る吊り橋を過ぎて、ただただ北上する。
ところによりアップダウンを繰り返しながら。
ルートが広くなるのは1時間を過ぎてから。
森林管理のための車両が入り込める道路に出る。踏み固められた砂のルートで、これまでの登山道に比べれば歩きやすい。
ただただ長いルートは、上高地の横尾から小梨平へのルートを思い出す。
高瀬川が高瀬ダムへ替わり変電所を過ぎるとトンネルをふたつ潜る。
2つめのトンネルは長く、真っ直ぐなので先に光りが見える。
晴嵐荘から高瀬ダムまでは2時間20分。
とにかく我慢でなかなか近づかない山肌を眺めながらのルートだった。