稲子湯から八ヶ岳へ
小海町から稲子湯へ向かう。
温泉旅館のより500mほど上部にある駐車場に車を停め、ゲートから登山道へと入っていく。
近隣では林業が行われているところで、大きな車や丸太を積んだトラックが行き交っている。
駐車場に停まっていた車のほとんども林業のための駐車と思われた。
登山道の序盤は広い林道を上っていく。
林道をショートカットするように林の中を指している標識を無視し、道に沿って緩やかに進む。
序盤の林道は30分ほど。
樹林帯に囲まれた未舗装の広い道路は気持ちが良く、時間も忘れて登山口近くに辿り着く。
旧登山道からみどり池
登山口を見逃して5分くらい通り過ぎたけど・・・
稲子湯から小屋が建つみどり池へ、通常使われる登山道は森林整備のために通行止めとなっていた。
旧登山道への案内が掛けられていたのを見逃し、さらに旧登山道の案内板も見逃し、5分ほど通り過ぎたところで見慣れない景色に気が付いて林道を戻った。
みどり池への矢印を見つけ、林道から急斜面の樹林帯へと入っていく。
5分ほど登ると本格的な登山道に入った。
沢に掛けられた丸太橋を渡ると、北八ヶ岳らしい濃い緑に覆われた登山道。
登山道の傾斜も緩く、沢の音を聞きながら木漏れ日を受けて歩く。
強い湿気と地面を覆った苔類を見るのも楽しい。
橋から20分ほど登ったところで、登山道上にレールが敷かれているのを見つけた。
旧登山道と言われているこのルートは、そもそもは林業のためか開発のためかで使われていたようで、朽ちたレールは錆び具合からはそう古いものには見えない。
登山道のところどころ崩れているところもあるため、再び使うことは難しいのだろう。
比較的傾斜が緩く、レールの枕木が滑り止めのような役割でとても歩きやすい。
歩きやすいとはいっても、こっちの道は知らなかったから先は不安だけど・・・
レールの道は意外と短く10分ほどの登りだった。
橋から30分とほどで通行止めになっていた登山道と合流。
見たことのある景色に安堵しながら、傾斜のきつくなる登山道を登っていく。
樹林帯はさらに厚く、陽の届かないところでは苔がビッシリと繁茂して、周りにはいつの間にかシラビソの白い木肌が目立つようになっていた。
北八ヶ岳らしく足元に緑の多い景色を見つつ登り、登山口から約1時間と少し、合流地点から20分ほど、しらびそ小屋の看板が見えた。
平坦で歩きやすい樹林帯を進むと、テント場が見え、しらびそ小屋の建物が見えた。
ここでケーキを食べるにはちょっと時間が早い
みどり池から本沢温泉へ
みどり池は眺望の少ないこのルートで天狗岳を眺められるポイント。
眼前に聳える天狗岳の険しい岩肌と、水面に映った天狗岳とを眺める。
前々日までの台風の影響か、みどり池は溢れ、登山道上に10センチほど池の水が侵入していた。
くるぶしまで浸かりそうな水の中へ足を入れて、水面を荒立てないようにそっと歩く。
少しでも地面の高いところを選び草の上に足を置いても意外と深く靴が浸かる。
なんとか水面を過ぎて登山道へと入っても、水気の多さは変わらず、場所によっては登山靴のソールが土の中に埋まった。
しらびそ小屋から5分ほどで、中山峠と本沢温泉との分岐点に到着。
帰りは右から下りてくる予定
本沢温泉方面へと足を向け、平らで水気の多い登山道を進む。
この辺りは、それまで以上に苔が多く繁っているようで、視界に入る景色が緑ばかり。
やはり北八ヶ岳は広い景色や岩稜ではなく、この色を楽しみたい。
湿度が高く鮮やかな色を魅せる登山道を見渡しながら、ひたすら横へ横へと進んで行くような印象。
分岐から30分ほど進むと、それまで緩やかに登っていた登山道は、徐々に下りへと変わっていく。
それに伴って多かった緑の植生は、だんだんと赤茶がへと変わってくる。
苔の代わりに笹が茂り、落葉松のような木々が周りを多う。
10分ほど下って本沢温泉への合流点へ着く。
この辺りまで来ると登山道の土も赤くなっているようにも感じる。
この色の変わり具合を楽しめないとつまらない登山道だろうな
本沢温泉への登山道はさらに歩きやすく、擦れ違う人の中には自転車に乗る人もいるほど。
ときどき左側の枝の間から硫黄岳がチラリと見え、相変わらずの高さに少し気持ちが怯む。
高低差は800mほど、それでも眼前に迫っていると高さは数字以上に感じる。
本沢温泉に到着
本沢温泉は2000m以上の高地にある野天風呂が特長。
登山道から覗き見えるその風呂には入る機会がなかなか持てないため、今回は時間に余裕があれば5分くらいでも・・・と考えていた。
これから硫黄岳へと向かうルート上になるため、立ち寄るのにも都合が良い。
本沢温泉は山小屋を楽しむという今回の趣旨に沿っている
本沢温泉の前にあるテーブルで今後のルートと天気予報とを照らし合わせ、ここで予定を変更することにした。
一泊二日の行程は、2日目に強く雨が降る可能性があり、天狗岳の稜線を歩くのには危険があると考えていた。
予定通り硫黄岳に登り予約した山小屋からピストンするか、硫黄岳はショートカットして天狗岳へ登り別の山小屋へ泊まるかという選択肢になり、今回は後者に変更することに決めた。
本沢温泉の露天風呂と、オーレン小屋の桜鍋は次の機会にすることにし、本沢温泉からは白砂新道を登って天狗岳へ向かう。
時間的にも距離的にも日帰りが可能な行程になるが、当初の趣旨に従い、黒百合ヒュッテでゆっくりと過ごすことにした。
本沢温泉から天狗岳へ
本沢温泉から八ヶ岳の稜線上へはふたつのルートを辿ることができる。
主要な夏沢峠へのルートは、硫黄岳へ向かうことができ、八ヶ岳の西側へと抜けることができる。
今回の天狗岳へは大回りになるため、最短の白砂新道を登ることに。
本沢温泉の裏から始まる白砂新道は「新道」と名の付く多くの登山道と同じように、山頂へ一気に標高を上げていくため急登が続く。
のんびりと樹林帯を楽しむのであれば夏沢峠から箕冠山・根石岳と抜けて天狗岳を目指したい。
最短距離が良いっていう意見もあるので
白砂新道へ入るとすぐに小さな沢を渡り、急な斜面が始まる。
木々が茂った登山道はテープも目立たず分かりづらいため、ところどころで足を止めて行く先を確認して登る。
大きな石や高い段差は、本沢温泉までの登山道のように植生を楽しむような余裕も無く、木々の間に青空が見えるもののなかなか近づかない稜線に息を切らせて登る。
30分ほど登ると樹林帯の中からチラホラと景色が見えるようになり、いつの間にか夏沢峠よりも高い位置まで登り、硫黄岳の山頂がそう高くはない位置に見えてきた。
稜線直下に近づくとさらに斜面は急になる。
目の前に東天狗岳らしい尖塔系の岩峰が見え始めると、急に樹林帯を抜けたようで景色が開けた。
登山道を振り返ると硫黄岳と遠くに秩父の金峰山、右前方には佐久の街が見える。
その先に聳える浅間山は霞んで見えた。
樹林帯を完全に抜けて眺めの良いところから見下ろすと、通ってきたしらびそ小屋や本沢温泉の屋根が見えた。
その中間の樹林帯には、成育の度合いが違うのか緑の色が縞模様に見える場所もあった。
そろそろ樹林帯以外の景色も見たかった
登山口からは3時間16分。
平坦な登山道が多く、時間が長く掛かったわりに体力的には余裕のある状態で稜線上に出た。
目の前には天狗岳のふたつの峰が並び、振り返ると根石岳の尖った峰が見える。
空は雲が多いものの広く景色が見え、強めの風が気持ちいい。
ふたつで天狗岳です!と言うと、ふたつも行くの?という声が聞こえる・・・
天狗岳の取り付きは岩のガレ場で、樹林帯の段差とは違って硬い感触と砂地のジャリジャリとした音を聞きながら登っていく。
細い尾根は眺めが良く、振り返ると南八ヶ岳が見渡せる。
すぐそこに見える東天狗岳の山頂は人で賑わっているらしく、ここまで登ってきてようやく人気の高さが伺える。
ここまでの樹林帯はどちらかといえばマニアックだったのかもしれない。
東天狗岳目前のところで鉄網の橋を渡り、高い岩の段差を登り、東天狗岳に到着した。
東天狗岳に到着
登山口から3時間28分での到着だった。
眺めが良く、八ヶ岳が一望できるようだった。
相変わらず雲の多さのため、北アルプスは僅かに見える程度とはいえ、高い空の下で見る景色は満足度の高いものだった。
天狗岳の山頂は隣接する西天狗。
やはり双耳峰の高い方へ登ってこその登頂という思いもあったものの、今回は見た目に派手な東天狗岳で下山路に着くことにした。
今回は単独行ではないので仲間の様子を見て決定・・・
黒百合平へ下りる
東天狗岳からは岩が多い登山道を下りる。
すぐ近くに見える黒百合ヒュッテの屋根は、歩くと意外と遠く、なかなかに近づく様子も無い。
稜線上の分岐をすりばち池へ進み、熔岩石を渡るようにして下りる。
ここから見える深く繁った緑と枯れた緑が交互に見えるのも北八ヶ岳らしい。
細かな上り下りを繰り返し、岩場を下りていく。
すりばち池越しから見る天狗岳は、登りで見たような尖った険しい雰囲気は無く、緑が繁り丸く穏やかな山のようだった。
すりばち池からの下り坂はかなり急な斜面で、大きな岩を伝うようにして下りていく。
黒百合ヒュッテはかなり下にあるように見える。
東天狗から50分ほどかけて黒百合平へ到着。
黒百合ヒュッテへ立ち寄った。
まるで吸い込まれるようにヒュッテの中へ
黒百合ヒュッテで一泊
黒百合ヒュッテに到着したのが1時過ぎだったこともあり、昼食は軽食を頂くことに。
ビーフシチューやおはぎなどの豊富なメニューが揃う中で、ハンバーグカレーを選んでお願いした。
黒百合ヒュッテといえば人気が高く、たくさんの人が訪れるという印象を持っていた。
そのため設備が整い、斬新なものがあるという勝手な印象も持っていたのだけれど、立ち寄った印象では一般的な山小屋で節電もしているし、水も大切にしているし、美味いメニューが多いという印象だった。
食べ終わってから骨付きチキンカレーを見つけて後悔したのだけど
中山峠から下山では約2時間を見込んでいるため、その日のうちに下山することも可能な時間。
あえてゆっくりと過ごす山小屋は贅沢で、なにをしたら良いのかも分からないまま、だらだらと時間が過ぎていく。
天候も崩れていく一方で、風が収まるわけでもなく、厚くなる雲を見ていると雨が降り出すのも予報より早いのではないかと思われる。
この日の宿泊は15〜20人ほど。
大広間に空きがあるところで個室を借り、窓から外を眺めたりしながら陽が暮れていく。
少ない蓄電の中で、夕方に点けてもらったテレビは雨が降る予報で、行程を短くして良かったと思えた。
あえていえば、泊まらずに下りるのが最善だったのかもしれない。
のんびりする行程だったからね
2日目の下山
黒百合ヒュッテの朝食は5時半。
すでに雨は降り出し、風も前日以上に強く吹いている。
稜線上に出ることも憚られ、早く樹林帯に入って雨風を凌ぎたいと思えた。
朝食後、早々に準備を整えて出発。
まだ暗さの残る朝の出発で、しらびそ小屋でのチーズケーキは諦めた。
黒百合ヒュッテから10分ほどで中山峠を過ぎる。
ここから一気に標高を下げるような急な下り坂が続く。
段差の高い岩場には鎖が架けられ、伝うようにしながらゆっくりと下りる。
ここまで来ると木々が厚く風の影響も受けづらい。
ときどき風に煽られた枝から大粒の水滴が落ちるぐらいで、雨も強くは感じない。
黒百合ヒュッテから50分ほどで本沢温泉との分岐点に着いた。
登山道も序盤の急斜面から、かなり歩きやすいなだらかな状態に変わっていた。
5分ほど歩くと、みどり池。
溢れていた水はさらに水量が増しているようにも見えた。
ここまで溢れてたら多くても少なくても一緒
しらびそ小屋を過ぎ、登りと同様の登山道を下りていく。
なだらかでレールのある登山道は前日と同じように歩きやすく、いっぱいの緑は雨でより鮮やかになっているようだった。
黒百合ヒュッテからの下山は2時間と掛からず、稲子湯の駐車場に到着した。