妙徳山へのバリエーションルート
須坂市の仙仁地区は、中心地から菅平へと向かう南側に位置する。
両側を山に囲われた谷間の集落で、妙徳山は仙仁を見下ろすように西側に聳えている。
菅平から熊窪山、妙徳山と尾根を繋ぎ、登山道は標識があるものの分かりづらいという事前の情報だった。
須坂市の里山の中でも街から離れた山へ登ろうと考え、熊窪山への登山を計画した。
登りの予定時間は1時間半程度と推測。
GPSをプロットした地図や、現地の写真をiPhoneに保存して向かった。
須坂市街から菅平へと向かい、仙仁温泉の向かい側から細い農道へと入っていく。
車の擦れ違いができないほどの狭い農道を折り返して、すぐにゲートに着いた。
ゲートの手前には車が3台ほど停められそうな空き地がある。
ゲートを開け、舗装された林道から山の方へ向かって入っていく。
ゲートから5分
まっすぐに続く舗装路に、うっすらと積もった雪を踏みながら、道に沿って山へと入っていく。
5分ほど歩いたところでアスファルトは土に変わり、道路脇には「一般車両立ち入り禁止」と書かれた看板が建てられていた。
道の先には植えられた杉の林が広がり、陽の光を遮って薄暗い。
道路に沿って進むと枝葉の間から陽の光が射しながら、枝から落ちる雪がキラキラとしていた。
じきに登っていく道路と、その脇を緩やかに下っていく道路と二股に分かれた。
分からないけど、きっと上の道だろう・・・
熊窪山へ行くのなら、左へ緩やかに下っていく。
右側の登る道は林業用の道路で、先は行き止まりになっている。
この時点では熊窪山へと行きたいと考えていたため、左へ進まなければならないところを、単純に上へいくという意識から右の道を選んだ。
杉林の中を右へ折れ、左へ折れて登っていく。
右手側には角度のある尾根の傾斜が見え始め、この林道のどこかに熊窪山登山口があると思いながら、事前の地図や地形図から登山口らしきものを探した。
分岐から5分
二股の分岐から5分ほど歩いたところで、林道はさらに分かれた。
入山禁止の看板があり、そのまま続く道路と、右へと巻く平坦な道路。
「右へと折れて尾根を巻いて登る」
地図はそのようになっていたことから、入山禁止の看板から右へと伸びていく林道へと進んだ。
途中から尾根を巻いて林道から離れるルートだったはず
急な斜面は左手に見え、地形図の通り尾根を巻くように道路は続いている。
左へ大きく曲がったところで、5mほどの背の低い杉が植林されている場所があり、それを潜るように踏み跡が続いていた。
人が入った跡に見え、なおかつ土が湿っている状態からそれが新しいものにも見えた。
頭に当たりそうな枝を潜りながら、踏み跡に沿って斜面を直登していく。
杉に囲まれて光は遮られているものの、左右を見ると葉が落ちた木の尾根が見える。
数分で急斜面
5分と経たないうちに杉林を抜けると、目の前には急な斜面。
行く先の木の間から稜線らしい尾根が見えるため、そう高くは登らないと思いながらも、この急斜面には面食らう。
しっかりと見えていた踏み跡も、枯れ枝に埋もれて見えづらい。
どことなく踏み跡のような雰囲気のある場所に足を置き、斜面へと踏み入ってみる。
急勾配のなかにも、どことなく足の置けそうな段差があり、枝と枯れ葉に埋もれた柔らかな地面もしっかりと踏ん張って太股を持ち上げることができそうだった。
先ほどまで見えていた踏み跡は、本当に人の足跡だったのかと疑問に思った矢先、登っている先に鹿が跳んで行くのが見えた。
はっきりとした跡は鹿が群れで踏んだものだったのかと肩を落としつつ、それでも木が切られたり枝が払われたりした形跡が残っているのを見て、人が全く入っていないわけじゃないことを確認し、上に見える尾根を目指していく。
人が入っているのなら足がかりにした段差や障害物もあり、落ちた枝は邪魔でも急な斜面の直登はできる程度だと考えた。
ましてや林業で機械類を持って入られているのならば尚のこと。
獣臭がする・・・
直登する急斜面の中ほどから点々と鹿の糞が残され、ところによっては40・50センチほどの塊で落とされた場所もあり、急激に香ってくる獣臭の息苦しさに気が滅入った。
登山靴とはいえ鹿の落とし物を踏むのは避けたく、全てを避けることができなくても、巨大な塊の中に足を突っ込むことのないように心がけた。
まだ柔らかく体温も残っていそうな質感は、さすがに強烈な存在感があった。
急斜面を15分登り
急斜面に取り付いて15分、尾根の上に出た。
葉が落ちた木で景色が開け、尾根上は登山道があるようにも見える。
東側にある根子岳の方向を見ると、山の斜面が真っ白に凍っているのが見えた。
そこからは尾根に沿って登り、緩やかに登っては平坦で穏やかな下り坂と登り坂とを細かく繰り返していく。
尾根上からは、麓の須坂市から菅平へと続く稜線が見え、立っている位置からはまだ高く遠く感じた。
尾根に出てしまえば迷いはしないはず
木々に囲まれた尾根上のルートは踏み跡らしいものもなく、なんとなく歩けそうに見えるところを踏んで行く。
場所によっては笹が茂っていたり、落ち葉に足が沈んだりと、雪の下にあるものが見えないまま踏み入れるところもあった。
木々が茂っているために眺望も無く、なんとなく枝の間から見える周囲の山肌を見て、所々に残る霧氷を楽しんだ。
尾根に出て20分
尾根に出てから20分ほど、右手側に一際高い膨らみが見えた。
手元の地形図で妙徳山だということを確認し、その稜線上に熊窪山、先には菅平があることを見た。
この場所で妙徳山が見えるということは、今の尾根に沿って進むことで妙徳山と熊窪山との稜線上に出る。
このまま熊窪山へと進むか、妙徳山の山頂を踏むか考えながら、ひとまず先に見える登り坂に取りかかった。
笹が茂り、人や動物が踏んだ跡は見えない。
ただすぐ近い先に青空が見えて稜線が近い。
どれが山頂だ・・・?
ちょっとここらで冷静になろう
笹の斜面を登り切って稜線に立つと、真下にある長野市若穂地区が見えた。
足元は膝丈の笹が茂っている。
特に人が踏んだような跡もなく、直近では誰も来ていないようだった。
熊窪山は稜線上の左、地形図を見ると今いる1100mほどの場所から850mほどまで標高を下げるようだった。
歩きやすそうな尾根道とはいえ、登山口とほぼ同等の高さまで下るのは楽しめないと思い、稜線上右側の妙徳山の山頂を目指すことにした。
2・3分の笹藪
足元はカサカサと音を立てて、膝に着いた霜は素早く解けてズボンに染み込んでいく。
2・3分ほどで笹を抜けると、踏み跡のように見える窪みが見られた。
整備されているような登山道には見えないものの、木や枝もなく歩きやすい。
妙徳山も近くに見え、細かな登り坂を繰り返して山頂へと近づいていく。
妙徳山山頂
登山を始めたゲートから1時間22分、妙徳山の南側の峰に着いた。
長野市側の一部だけが木が開けて街を見下ろすことができる。
霧が遅くまで残っていたらしく周りは一面の霧氷。
青空の下に広がる凍った枝が美しく楽しめた。
山頂はこの場所から2分ほど尾根を伝ったところ。
こちらも木が茂っているために眺望は少なく、須坂市が僅かに見える程度。
まわりを見渡しても、霧が枝に凍り付いた景色のみで、他に見える物もなく、凍えた山頂ではやることもなく下山をすることにした。
霧氷が綺麗だ
斜面を直降して下山
地形図を見るとすぐ近くに林道がある
妙徳山の山頂から仙仁へと戻るには、登ってきた尾根をピストンで引き返すか、熊窪山との鞍部まで進んで林道を戻るか。
地形図からは、山頂の東側500mほどの場所に林道が続いているのが見えた。
高低差は200mほど。
登山道ではなくかなりの急斜面になっているのが見てとれる。
ただ登りと同様に、山の整備のために伐採や枝打ちがされているため人が入った形跡があり、急斜面の中にも足がかりがあるようだった。
正規の登山道ではないため分け入っていくことには気持ちが引けるところがあったものの、直下にある林道への興味があり林業の跡を使わせてもらうことにした。
20分
急な斜面の直降は20分ほど。
足元が柔らかく、左右が深く沈んだ尾根上を下りたため、足を滑らせたり転倒したりすることのないよう、ゆっくりと慎重に足を下ろした。
斜面の真下は緩やかで、一気に穏やかな下り坂へと変わった。
すぐに車や重機が入ってきそうな開けた場所があり、未舗装で荒れた林道が続いていた。
これに沿って下りれば仙仁のゲートに着く。
雪が解けて泥の道になった林道を、登山靴を汚しながら下り、ゲートに着いたのは山頂から40分ほど下ったところだった。