Mt.乗鞍スノーリゾートから乗鞍岳山頂へ
休暇村を過ぎ、Mt.乗鞍スノーリゾートへと向かう。
道の両脇にある温泉宿とゲレンデを横目に道路の終点まで進む。
道路は「安曇乗鞍温泉館 天峰の湯」の前まで除雪され、宿泊者向け駐車場の反対側に、スキー、登山向けの駐車場が用意されている。
50台ほどは停まれそうな広い駐車場で、リフト運行までかなり時間があるにもかかわらず、たくさんの車が停まっていた。
スキー客とバックカントリーとどっちが多いのだろう
道路からゲレンデの雪の上に立ち、目の前に続く斜面をまっすぐに登っていく。
スキーを楽しむために綺麗に整地されたゲレンデは滑りやすく、ふかふかと柔らかくグリップが効くものの滑り止めは装着しても良いかものしれない。
ただただ開けたゲレンデを登っていくだけの時間、振り返れば駐車場が徐々に低く遠くなっていく。
ゲレンデは滑り下りるもの。。。登るのは大変。。。
三本滝レストハウスまでは約25分。
リフト2本分を登り、上級者向けの急角度のゲレンデを残すだけになった。
視界は開けそれなりに標高も高くなり、振り返ればすぐ近くに見える樹林帯の丸い山頂は鉢盛山、八ヶ岳や南アルプスも存在感がある。
高く急角度に見える上級者向けのゲレンデを10分余りで登ると、そこから先はバックカントリーエリアになる。
Mt.乗鞍スノーリゾートのゲレンデトップ
やっぱり山頂が見えるとテンションが上がる
Mt.乗鞍スノーリゾートから出た整地のされないエリアで、バックカントリーのスキーヤーが多いとはいえ、一般的なゲレンデでは無くなる。
雪質は良くフカフカとした状態で、多くの人が入っているおかげで踏み跡がしっかりと着いていた。
いったんなだらかになったゲレンデトップから短い急斜面を登る。
階段のように踏み跡があったため、難なく登ると斜度が緩んだ登り坂がしばらく続く。
樹林帯の向こうには目指す乗鞍岳の尖った山頂部がチラリと見え、それが遠いようでもあり、気持ちが高揚するようでもあり。
スキー場から離れたバックカントリーのエリアとはいえ、木々が開けた林間コースのような趣で、視界が良く陽射しも当たる。
樹林帯のおかげで風が吹き付けることも少なく、暑いくらいの登山道が続いていく。
高くはない木々に囲まれ、あまり変わり映えのしない樹林帯の緩斜面、先に見える乗鞍岳を目指して登ること45分ほど。
木々の隙間から穂高岳が見えるようになった。
枝葉に遮られてその山容をしっかりと見ることはできないものの、北アルプスを代表する山のひとつが見えたことで気持ちが高まる。
今年は穂高へ行けるだろうか・・・
位ヶ原山荘の分岐
ゲレンデ下から1時間40分が過ぎたころ、位ヶ原山荘の分岐に着いた。
看板によると位ヶ原山荘は右方向へ40分。
位ヶ原山荘って意外と離れているのだね。
ここから肩ノ小屋へと向かう先は、バックカントリーのコースのような歩きやすい道にはなっていないという。
遭難や道迷いが多いという注意書きに気持ちを引き締め、矢印に沿ってまっすぐと進んでいく。
すぐに5分ほどの急登があり、そこを登り切ると森林限界になり、冷たい風が流れていた。
木々に遮られていた剣ヶ峰は目の前に大きく見え、振り返ると東側の山並み、足元は柔らかくなり、踏み跡に沿って歩みを進めても踏み抜くような場所もあった。
多くの人が先行しているであろう踏み跡も、まるで数人しか歩いていないかのような柔らかさで、これでもこの日まで晴天続きだったことを考えると本格的な冬期の厳しさが思い知らされるようだった。
踏み跡は肩ノ小屋へ向かって真っ直ぐに伸び、剣ヶ峰を左手に見上げながら進んだ。
木々の無くなった右側の景色は、穂高岳連峰の存在感が強く、何もかもが白く見えるような印象だった。
肩ノ小屋へ
スタートから約2時間、肩ノ小屋が見えたところでアイゼンを装着。
先行に従って踏み跡を踏んでいく。
風は冷たいものの強くはなく、陽射しの温かさが和らぐようで、むしろ快適でもあった。
ときどき左手後方に見える穂高岳を眺め、剣ヶ峰を見上げては先を進んで行く。
剣ヶ峰の右側に聳える朝日岳の斜面に人影が見え、それが思いのほか小さく、その大きさから近く見えている剣ヶ峰が、実は離れた距離にあることを思った。
広いし真っ白だし、ここって距離感がまったく分からない
斜面は緩やかな登り坂で、行く先の右側にある摩利支天岳と、その山腹にある観測所が徐々に近づいて見える。
摩利支天岳と朝日岳の鞍部にあたる肩ノ小屋への取り付きは急登になっており、ちょうどその取り付きにはトイレが建てられている。
深い雪に覆われたトイレは夏季のみが使用可能なようで入口が固く閉じられていた。
この建物に期待して歩く人もいるだろうに・・・
肩ノ小屋へと続く急登に取り付き、階段状に踏まれた足跡に沿って登っていく。
大きさや距離の感覚が違っていて、近く見える物が思っている以上に遠かったり、低く見える物が高かったりと、乗鞍岳のスケールに慣れないまま。
距離感や高さの感覚が疑わしいまま、雪の急登を登っていく。
振り返ると思っていた以上に登ってきた斜面が高く感じられる。
時間の感覚すらも分からなくなりながら、肩ノ小屋に到着し、時計を確認すると下にあったトイレからは約20分。
踏み締められたところもなく、朝日岳の斜面に登っていく足跡が見えるだけ。
なんとなくその方向へ足を向け、スタートから2時間56分、肩ノ小屋の建物の反対側に出ることができた。
回りに何も無かったせいか、ちょっと長いと思った
肩ノ小屋から朝日岳、蚕玉岳
肩ノ小屋からは朝日岳へまっすぐに足跡が続く。
陽射しが強く風が緩やかな穏やかな肩ノ小屋も、建物から少し離れると風の強さが増すのが感じられるようで、ちょうど少し離れた場所にいたRedSugar氏のアドバイスで防寒を整える。
見上げるとおだやかな一帯とは対照的に、朝日岳の上空には流れの速い雲が見えた。
ちょっと離れると風ヤバいかもしれないっすよ。。。って言ってもらったので。
肩ノ小屋から踏み跡に向かって一直線に斜面へ向かう。
風が雪をさらっていくからか、まるで新雪のような柔らかさで、踏み跡は先行する数人ほどと思われるほど浅い。
標高を上げていくほどに斜度がきつくなっていくようで、どんどんと肩ノ小屋が低く遠くなって行く。
右側には白山が白く大きく聳え、周囲には固く凍ったエビの尻尾がいくつも育っている。
シュカブラはえぐり取ったように深く刻まれ、遠くに見える山並みが斜度の表しているように平坦に見えた。
肩ノ小屋から30分掛けてようやく朝日岳の山頂に着いた。
社殿の建つ山頂部の剣ヶ峰と、大きな火口湖の向こうに御嶽山の山頂が見える。
登ってきた斜面の方を振り向くと、穂高岳連峰と奥に槍ヶ岳、北アルプスの山々がいくつも並ぶ。
黒い山肌に頭頂部だけが白く存在を増して見える。
朝日岳の雪面にはいくつもの細かな突起があり、まるで爬虫類や水生生物の肌のようでもあった。
にしてもRED SUGAR氏の姿は無いが、シャッターを切る音だけが聞こえる・・・
朝日岳からはいったん下り、蚕玉岳へと登り返す。
ここまで来ると、急斜面を登った太股の疲労が噴き出すように足が重たく、陽の光でエビの尻尾が煌めいているのを楽しむほどの余裕もなかった。
ただ周囲の岩にはエビの尻尾が長く伸び、しかもストックで突いても折れないほどに固く凍っていた。
そのエビの尻尾がいくつも育って固まった様子はまるで蟹の剥き身。
「蟹の剥き身」って流行ると良いな。
陽の光を受けて青く透き通るようだった。
乗鞍岳山頂の剣ヶ峰
蚕玉岳から山頂はすぐ近く高低差も少ない。
やわらかな雪の斜面は、足が埋まりやすく滑りやすい。
すぐそこに見える山頂の鳥居への登りは見た目以上に苦労を要しながら近づいた。
すぐそこに見えるのだけどね。。。
スタートから3時間43分、乗鞍岳の参考地点の剣ヶ峰に到着した。
風を除けることのできない山頂の鳥居は北側が大きく凍り付いていた。
社殿は全体が真っ白に凍り付き、壁にはまるで鱗のように細かな板状の氷がいくつも張りついていた。
屋根は氷が迫り出し、建物の形状が変わってしまっているかのよう。
ものすっごい彫刻が着いた建物みたい
山頂の南側にはまだ雪の残る御嶽山が見え、北側の景色は標高が上がった分、穂高岳の岳沢や、焼岳が見ることができ、遠く後立山の峰々も視界に入るようだった。
社殿の西側に回り込むと、浅間山や八ヶ岳、南アルプスが雲の切れ間に見え、中央アルプスが白い。
間近に見える鉢盛山の山頂部だけがうっすらと白くいくつもの尾根が折り重なっている。
社殿の屋根は小さな突起が付き、裏側にある小さな祠は行きに埋まった状態だった。
みんな景色が見たいのだから、どこで腰を下ろそうかと迷う山頂だった。
Mt.乗鞍スノーリゾートへの下山
剣ヶ峰からの下山はMt.乗鞍スノーリゾートへ。
持参したヒップソリを片手に、滑り下りることのできる斜面を探して蚕玉岳と朝日岳の鞍部を下りる。
新雪でやわらかな斜面は膝まで埋まり、ヒップソリを下ろしても滑り下りることができるところも限られる。
固く締まったところでは、急斜面で思いのほかスピードが出てしまい、その上、シュカブラで飛び跳ねて足腰が痛い。
ソリを離してしまってダッシュで追いかけて転んだのは内緒の話
朝日岳からの急斜面が終わり、位ヶ原に近づいて緩斜面になると、登りの踏み跡以外の場所を歩いていたために踏み抜きが多く、もとの踏み跡に戻るのが大変だった。
雪が軽いから良いけれど、わりとズボズボしました。。
緩斜面から乗鞍岳を振り返り、名残惜しく思いながら下り、徐々に距離を離していく。
長かった樹林帯も下りではどんどんと高度を下げ、すぐにゲレンデトップへ戻ってきた。
リフト運行前だった登りではまったくいなかったスキーヤーも、この時間帯では多く見られ、それを避けるようにゲレンデの端を下りていく。
気温と陽射しの暖かさですっかり雪はザラメ状になり、ゲレンデは残雪期の雪質だった。