初日 栂池自然園から白馬大池へ
長野市街から「オリンピック道路」を通って約1時間、白馬村へと向かう。
唐松岳や五竜岳などへの玄関口になる八方のバスターミナル前の駐車場へ車を停め、朝7時15分のバスに乗り、30分ほどバスに揺られ、八方から栂池高原へ着いた。
バスを降りて5分ほど歩くと栂池高原のロープウェイ「イブ」へ着く。
この季節の栂池高原からのロープウェイは、始発が8時と遅めの時間。
ゴンドラを乗り継いで自然塩から登山口へと入っていく。
八方は「アダム」で栂池は「イブ」なんだね。
同じ白馬エリアのロープウェイだけど。
ロープウェイ、ゴンドラを乗り継いで栂池自然園へと向かう。
運行時間が早まる夏シーズンの一週間ほど前だったため、始発はゆっくりとした朝8時。
チケット売り場には列ができ、運行開始を待っている状態だった。
1920円のロープウェイとゴンドラの片道切符を買い、標高1800mあまりの栂池自然園へ。
20分ほどのロープウェイを下りて5分ほど歩いてゴンドラへ乗り換え、ゴンドラを降りてからは10分ほど歩いて自然園へと向かう。
始発から1時間ほど掛けてようやく登山口に到着した。
ここまでのチケットは、モンベル会員だと往復、JRO会員だと片道が安くなりました
登山道は長く続いた雨と、ガスに覆われていることとあって湿ってかなり滑りやすい状態。
幅が広く木段が整備されているため、歩きづらさはなかったものの、石や木の上で靴を滑らせそうな雰囲気もあった。
登山口の栂池自然園は1800m以上の標高で、登山道を少し登っていくだけでイワカガミなどの花が見られる。
盛りを過ぎて散った水芭蕉も多くあり、良い季節であれば花が楽しめるルートだと感じられた。
自然園ではサンカヨウが良い時季だったらしい。
サンカヨウを見に行くのも良いなと思った。
周囲のガスは標高を上げていくほど濃く白くなり、登っても登っても高さや行程の進み具合がまったく感じられない。
ただ頭の上を覆っていた緑が開けたくらいで、なにも見えない樹林帯をひたすら登っていく。
登山口から30分を過ぎたほどで銀嶺水という水場を過ぎ、天狗原まで1キロを切っている看板を見た。
天狗原まで登れば白馬乗鞍までは300mほどの高低差と、初日の残りが見えてくる。
周囲がガスに覆われて、時間が経つほど雨が降りやすい予報を考えると、早めに大池山荘へ到着したいという思いもあった。
天狗原
銀嶺水から15分ほど歩くと、樹林帯が開けたなだらかな場所に出た。
石畳のように石が埋まっている登山道の先に、20mほどの雪渓が残っていた。
湿って滑りやすい雪ではあったのものの斜度も無くなだらかで、難なく雪の上を通過し再び緑が厚く茂った中へと入っていく。
天狗原には栂池自然園から48分ほどで到着した。
標高2180m、樹林帯の中に木道が敷かれ、湿地帯の上を歩いて行く。
天狗原に到着し右後方を見ると、巨岩が積み上がった丘のような場所に石造の祠が置かれていた。
湿地帯を一望するような場所で、今回はガスのために眺望が無いものの、晴れていれば白馬乗鞍と合わせて美しい景色が見られそうな場所だった。
もうちょっとワタスゲが見たい感じ
湿原だし、植物を楽しみたい気分。
湿地にはワタスゲやチングルマが群生し、木道を少し進んでいくと、さらに水の量が増えて、その透明度が美しかった。
天狗原でしばらく景色を眺めていると。ガスが流れ木道の向かう先に白馬乗鞍が高く大きく見えてきた。
山頂への斜面には雪が多く残り、その急登を登っていくように踏み跡が見える。
風吹大池との分岐を過ぎるとすぐに雪の斜面が始まった。
雪の合間に川のように雪解け水が流れ、まだ高く雪が残っているせいか頭をかがめて木の枝をかいくぐるようにして登っていく。
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白馬乗鞍への取り付き。
ここから雪を登る。 -
ココから直登
固く締まってデコボコとしているのでアイゼンは使わなかったけれど、雪に不慣れだったら滑り止めはあった方が無難。 -
振り返ってみると天狗原が下の方に見える。あんなに歩いたのか。
白馬乗鞍の取り付き
山頂方向へ向かって、まっすぐに雪の斜面を登っていく。
トラロープが1本垂らされているのを目印にして、波状の雪の斜面に足を乗せる。
雪は硬く締まっているため埋まることもなく、かえって爪先で蹴り込むことができずに滑りやすさを感じさせる。
ただひたすらに真っ直ぐに登っていくだけの雪の斜面。
振り返ると天狗原が低く見える。
ここからの振り返りの景色はけっこう良かった
雲の流れが速く、中盤まで登ったところで青空が見えた。
青空が見えた代わりに天狗原を雲が覆い、またあっという間に空が白く代わり、天狗原が見えるといった景色を繰り返していた。
15分ほどで急登を登り切り、岩場を登ると残りの雪渓を50mほど緩やかに登り、山頂へと近づいていく。
白馬乗鞍岳
広大な山頂に広がるハイマツ、自然園から1時間25分での白馬乗鞍岳だった。
ハイマツの中を縫うように登山道が続き、山頂部にはケルンが建てられている。
東側には乗鞍岳山頂よりも高いようにも見える峰があり、南側へと下っていくと白馬大池がある。
天候が良ければ白馬岳へと続く船越の頭や小蓮華岳が見渡せるポイントだったが、今回は予定通りに雨が降り出す前に通過できたことだけでも良かった。
早々に白馬乗鞍岳を過ぎ、白馬大池へと向かう。
雲を映している黒い白馬大池を上から眺め、近いようでなかなか近づいていかないもどかしさもあり、少し足を速めようにも、大きな岩のガレ場の下り坂は足元を確認しながら。
池の畔を巻くように登山道が続く。
白馬大池
栂池自然園から1時間46分ほど。
白馬大池の畔に立つ白馬大池山荘に到着した。
午前のうちに到着したいと予定をしていたとおりの白馬大池到着で、小屋で食事を取らせてもらい初日の行程を終えた。
小屋で、きのこの粕汁とカップスターを頂きました
白馬大池山荘
白馬大池山荘は真っ赤な建物は周りの景色に映えるようで、どこからでも見つけられるほど存在感がある。
小屋の周りには花が多く咲き、いよいよ白馬岳へと向かっているといった雰囲気がいっぱいだった。
建物の前にはテント場があり、平坦で平らな寝心地の良さそうだった。
2段ベッドのような相部屋の個室と、夕飯は5時半でチキンカツカレー。
朝には弁当の準備が可能で、この日はそぼろ弁当と唐揚げという朝からボリュームのある弁当だった。
白馬大池の畔という立地から、夜は水面に星や山並を映す様子が楽しめ、涼やかな景色の広がる場所という印象だった。
ただ昼のメニューは控えめなため、そこを期待して訪ねるのはおすすめできない。
船越の頭へ
早朝に白馬岳を目指して白馬大池山荘を出発。
まずは目の前に見える船越の頭を目指す。
4時にもなれば朝陽が見える時間帯になるが、白馬大池山荘は東側に白馬乗鞍岳があるため、早い時間に朝陽を見ることができない。
船越の頭へと登りながら、少し西側へ登った方が朝らしい景色を楽しめることを知った。
ハイマツを抜け眺望が開けると、明るく日が射す東側の朝陽と対照的に、西側には暑く雲が流れ始めていた。
谷の対岸に見える雪倉岳には、すでに雲が流れ寄っているようで、その中に飲まれてしまうのも時間の問題といった雰囲気に見える。
とても静かで自分の足音しか聞けないような景色の中で、ふと視界の端に動くものが見え、目をやるとライチョウが足元から離れて行った。
足元に見えたときには踏んでしまいそうなほど近い距離を感じたものの、静かに近づいていくと決して2m以内には立ち入らせない様子だった。
決して手が届くことはないけど、届きそうな距離にいるライチョウのツンデレが好き
ライチョウとお互いに睨み合うように挙動を見ている時間を過ごし、こちらが根負けして再び船越の頭へ登り始める。
細かな石のガレ場を登り、肩のような丸味のあるピークを登り切ると、山影に隠れて見えなかった景色が見えた。
遠く鹿島槍ヶ岳、さらに遠くの雲に浮いているように見える八ヶ岳や南アルプス。
眼下には白馬村が見え、先へと続く登山道は狭い稜線上を歩くように変わった。
白馬大池山荘から30分を過ぎたほどで船越の頭に着いた。
振り返ると雨飾山や高妻山が朝陽の影になり、これまで登ってきた真っ暗な山肌に白馬大池だけが輝いている。
これから向かう白馬岳方面の小蓮華岳や白馬鑓ヶ岳は陽の光で黄色く見える。
朝の景色を楽しみながらも、東側の雪倉岳はすっかりと雲に覆われ、天候の悪化が近づいているのが見てとれるようだった。
船越の頭を下り、鞍部から小蓮華岳へと登り返していく。
小蓮華岳
鞍部から少し登ったところで、足元を駆け抜けるライチョウが一羽。
そのまま斜面を駆け下りていく後ろ姿を見送り、登山道の方を向き直すと、稜線の先に白馬岳の山頂部が見えた。
白馬岳の南側にある白馬鑓ヶ岳や杓子岳はすでに雲がかかりはじめ、このまま白馬岳が雲に覆われるのも時間の問題のようだった。
登山道の脇にはコバケイソウやハクサンイチゲなどの花々が多く、雲の多さとは対照的に、いよいよ華やかな雰囲気が漂う。
稜線の緩やかな登りと、ほぼ平坦な斜面を繰り返し、船越の頭から35分ほどで小蓮華岳へと到着した。
小蓮華岳に到着する頃には風が強くなり、小蓮華岳の周りではガスが流れていく。
広くはない山頂には、標高と山名が書かれた標、剣のようなモニュメント、首の取れた地蔵が置かれていた。
白馬岳の方では雲が広がり、山頂手前の三国峠はすでに雲が覆っているようにも見えた。
早々に小蓮華岳から白馬岳方面へと向かうことにし、風が強く吹き付ける稜線を歩いて行く。
天候が良くは無いものの小蓮華岳から見る白馬岳の眺望は素晴らしく、青空の下でこれを見たかったと悔いる気持ちも湧いた。
小蓮華岳から10分ほどの三国峠へと向かう途中で、白馬岳への眺望が無くなり、ときどき雲の流れで山頂部が見える程度。
雪倉岳はすっかりその姿が見えなくなっていた。
小蓮華岳からの穏やかな下りを過ぎ、三国峠が近づくと登り返しが始まる。
雪渓をトラバースすると、雪倉岳、白馬岳への方向を示した分岐点へと到着した。
富山・長野・新潟の境に近い三国峠は、日本海へと登山道が続く。
いつか日本海から、日本海へと歩き抜けたいと思いながら、三国峠を過ぎ白馬岳へ。
白馬岳
三国峠からは急な登り坂が続く。
緑の少なくなった登山道の横には小さな花がいくつも咲き、ハイマツは濃い緑の中に赤い実を付けている。
周りを見回してその様子を見ながら急な登り坂を山頂へと近づいて行く。
危険な岩場や鎖場などは無いものの、風の吹く稜線上の登山道は、楽しみの中にも緊張感があった。
高さのある岩場を越え、山頂手前にある肩のような平坦な稜線を歩き、いよいよ尖った白馬岳山頂部へ。
心配していた雲は無く、どうにか山頂まで晴れ間が持ちそうな雰囲気だった。
ここまでは・・・
急な斜面を登るために足元に目線を移し、周りの景色にも気が付いていなかった数分の間、いつの間にか真っ白なガスに覆われた。
山頂まで10分ほどの間、見晴らしが良かったはずの狭い稜線場の登山道は、先20mほどの視界しかない状態に変わってしまっていた。
山頂を視界に捉え、白馬岳の標に向かって緩斜面を登る。
白馬大池を出発してから2時間5分ほど、白馬岳の山頂に到着した。
前日の栂池自然園からは4時間を回ったほどだった。
白馬岳の西側は切り立った岩壁になっており、眺望が良いときには眼下に白馬村を見下ろし、東側の山々が見渡せる。
西側は丸味のある山容で、剱岳や立山をはじめ、北アルプスの奥深い景色が楽しめる。
今回に限っては、その様子を見ることができなかったばかりか、白馬三山の代表的な景色も雲の中に隠れてしまって見ることができなかった。
山頂での見るべき景色を楽しむこともできないまま、白馬岳山荘へ向かって山頂を後にした。
白馬岳山荘のスカイプラザへ行きたいのです。
下山
白馬岳からの下山は大雪渓を通って猿倉へ。
山頂での滞在時間が短かったため、白馬岳山荘で休憩をさせてもらい、大雪渓へと下りていく。
白馬岳山荘から下はより一層の雲の厚さで、間近にある旭岳すらも見ることができない。
多く残る雪を見ながら頂上宿舎の横を通り、大雪渓へと向かう。
登山道の両側では花が多く見られ、天候以外のところではタイミングの良い行程だったと感じられた。
九十九折りのガレ場を下り、大雪渓の上部にある避難小屋を過ぎると、核心部ともいえるトラバースする地点に到着する。
100mもないほどの僅かなトラバースでも、急な雪の斜面を横切るため、ここでいったんアイゼンを装着する。
その後はガレ場になるためアイゼンを外し、眼下に広がる大雪渓に向かって下りていく。
崩れやすいガレ場の登山道で、ところどころに水の染み出した歩きづらい状態だった。
今回の大雪渓は、特に落石が多いような印象で、右側に見える杓子岳からの細かな石が崩れ落ち積み上がっていたり、雪渓上にも巨石が転がっていたりと注意したい状況だった。
下りている最中にも、杓子岳とは反対側の斜面から1mほどの巨石が転がり落ちているのが見えた。
なんか過去に無いほど落石多くないか?
長い大雪渓の下りから夏道へと移ると緊張感もかなり緩まり、安心した気持ちで猿倉へと向かった。
緑の多い周りにも花があり、サンカヨウが群生しているところも見られた。
通り過ぎた白馬尻小屋はオープン前の準備で忙しそうで、その様子を見ながら下りていく。
大雪渓を過ぎるとかなり歩きやすく感じる。
白馬尻小屋から15分ほど下りると、登山道から関係車両が入る林道へと変わる。
格段に歩きやすくなった道路を猿倉へ。
この辺まで来ると蒸し暑い気がする
白馬尻小屋からゆっくり歩いて40分ほど。猿倉荘の屋根が見えた。
長く感じられた大雪渓も、白馬岳から2時間半と掛からないペースだった。
猿倉からはバスで八方バスターミナルへと戻るため、猿倉荘の前を借りてバスまでの時間を過ごす。
荷を片付けながらバスを待ち、栂池からの白馬岳登山を終えた。
バスの運賃は930円でバスターミナルまで20分ほど。
途中、不帰のキレットが見られるポイントがあるため、右側に座るのがおすすめ。