山深い高標山のブナの森を歩く
長野県北信地域の山深いエリア、観光客が訪れる志賀高原から秘境と言われることもある秋山郷へ、鬱蒼とした緑の台地が広がっている。
焼額山から秋山郷の鳥甲山まで、雑魚川に沿ってなだらかに下っていくような地形で、西側には岩菅山から切明へと続く稜線、東側には竜王山の直下に市街地を見下ろし、北側には深い山が栄村と野沢温泉村を分けている。
細い林道が山の中腹を通り、車で過ぎて行くには爽やかな楽しさがあるものの、ここを歩こうというのは存在を知らなければとても思いたつこともないだろう。
特に見るべきものも無ければ、訪れて良かったと思えるような楽しみも無さそうに思える。
正直なところ、どうしてこの山に来たのかも分からない
カヤノ平高原
高標山の登山口は、主にはカヤノ平高原の林道から。
地形図では山間の発電施設やダムから登ることができるようにも見えるものの、きっと人が少ないどころか誰も歩いていないだろうと思える。
そういえばココはアブが多いところだったような気がする
キャンプ場にある駐車場に車を停め、林道入口まで歩いて向かうことにした。
秋山郷へ向かう方向とは反対側に林道のゲートが置かれている。
林道は西側に下り、小丸山スキー場へと繋がっている。
ゲートの横からなだらかに下りている林道を歩きながら、左右の深い緑を楽しんだ。
緑を見るのは良いけど、どこまで下りるのかちょっと不安
林道を下りて約10分、高標山と看板の掛けられた登山口を見つけた。
登山道は緩やかな登り。
周囲には鬱蒼とした藪が広がり、背の高い木々が視界を覆っている。
少し歩くと大きな木の下には背の低い緑が多くなり、真っ白な空が見えるように変わった。
ところどこに木段が作られ、よく踏まれた足元は歩きやすい。
よくテープが付けられているので、向かう方向も分かりやすくなっていた。
もう覚えていない登山道は、こんなにも分かりやすくなっていたのかと思うと、山深さを感じていた印象が変わるようだった。
こんなに整備されているっていうのは人が多く来るってこと?
ゲートから25分
林道のゲートから25分ほど歩いたところで、周囲は一層の深さを感じるような緑ばかりになった。
大きく育ったブナの木が多く、場所によってはダケカンバが多く育っているところもある。
白く見えていた空を、緑の葉が覆っているために、登山道は薄暗く感じるようだった。
歩きやすいけれどひとけがないのが不安
高標林道からの合流地点
ゲートから40分
40分ほどで分岐に着いた。
高標林道からの登山道の合流地点で、登山道の横には山頂とカヤノ平を示す矢印が書かれていた。
直進するのが正しいものの、一見して藪が行き先を覆っているようにも見え、この林道からの登山道を知らなければ進む方向を間違えてしまいそうな雰囲気があった。
間違って林道の方へ下りて行きそうだった
登山道の上に覆いかぶさる木々を退けて進むと、すぐに道が開けた。
踏み跡も鮮明で、なだらかさは変わらない。
少し歩くとなだらかに下るように傾斜が変わった。
事前に知った情報で、どこかで木々が開けて藪漕ぎのような地点になることが分かっていた。
合流地点を過ぎたので、そろそろ差し掛かかるころと思っていた。
そろそろ藪漕ぎがあるんじゃないだろうか?
目にしていた情報では、登山道を覆う笹の藪はすぐに終わるということだった。
実際に木々が開けて笹藪に差し掛かると、背の高さほどの笹が続き、少し視線を下げると葉の下に踏み跡が鮮明に見えた。
笹の上に顔を出すのが歩きやすいのか、少し頭を下げて掻き分けるようにして歩くのが良いのかと思いながら、ストックを前に出して笹を避けながら歩いた。
たしかに藪だけど、藪漕ぎというほどではないのかな
1・2分で笹を抜けると、藪とはいえないながらも枝が張りだした登山道になった。
細い枝や笹を避けて、踏み跡に沿って歩き5分ほど。
先ほどよりも深く厚い笹藪になった。
笹の上から顔を出すと、なんとなく人が通った跡が分かる。
掻き分けながら歩いていくと、いよいよ背より高い笹が多くなったので、笹の中に潜るように頭を下げてみたら、踏み跡が鮮明に見えた。
最初から身を屈めて歩いた方が歩きやすかったのかもしれない。
抜けるまで3分ほどの笹藪だった。
笹は厚くはないけど、でも何回もあるのは知らなかった
笹藪を抜けると左右から光が射し込む尾根のような登山道に変わった。
尾根のような雰囲気でもまったく眺望がないため、足元以外の地形も分からない。
ただ何となく明るさが射し込むのと、左右がなだらかに下っているように見えるだけ。
木々が間近に迫って茂っているものの、序盤のような薄暗さがないためか、奥深くまで分け入っているような雰囲気は感じられなかった。
明るさが変わるだけでも心持ちが違うものだね
藪から2・3分ほどで、急激な登りに差し掛かった。
長い登り坂ではなく、すぐに目の前に登りの終わりが見える。
木々が開けて眺望が広がっていそうにも見えるため、もうじき山頂に到着するかと安心感が広がる。
ただ実際に登り切ってみると、まだ先に登山道が続き、少し高い場所が見える。
知らない山でよくある偽ピークだった。
山頂じゃないのか・・・
視界に広がっていた藪が開けたため、南側の眺望が良い。
ガスが厚く流れているため遠くまで見渡すことはできなかったものの、奥志賀高原の大きな建物が意外と近くに見えた。
高標山 山頂
ゲートから1時間2分
ゲートから1時間2分ほどで高標山の山頂に到着した。
山頂の周囲を深い藪が覆い、中心にある祠の周りだけが刈り払われていた。
そんなに期待もしていないけれど、ちょっとくらいは景色が見られるのかなと思って
背の高さほどの藪があるため、眼下の景色は見づらく、南側の竜王山や岩菅山、東側の鳥甲山が見えるぐらい。
ただその周辺に広がる緑が濃く、林道すらも見えないほどだった。
北側に背伸びをしてみると、高社山や市街地が広がっているのが見えた。
何の音も聞こえず、雲が早く流れていくのと、その中で出たり隠れたりする近隣の山が見えていた。
ただ麓の街から見上げている山の稜線とは違う地形が見えるようで、知っているエリアの知らない場所を見たようだった。
地図や地形図で見ていた景色を、実物で見るのは感慨深い
下山
徐々に雲の様子が変わる山頂からの景色をあとにして、高標山を下りることにした。
今にも獣がどこかから出てきそうな雰囲気を感じながら、そんなことがないように足早にと。
登りで登山道を覆っているように見えた笹は、下山ではそう気にもならず、緩やかな傾斜があると思えた登り返しもまったく気にはならなかった。
あまりに手軽に折り返してしまい、拍子抜けするような気分だった。
笹がいっぱいのゾーンはいつのまに?
山頂から15分
山頂から15分ほどで、林道との分岐点に着いた。
来た道を戻るには左へ直進し、右へ向かうと高標林道へ出る。
どちらにしてもカヤノ平へ戻るには林道を通るため、違う道を通ってみることにした。
どうしようかと迷ったけれど、最後に林道を上るのが嫌だなと
地形図を見ると分岐点から林道へはそう遠くはなく、高低差も無さそうで、なんなく下りることができそうな雰囲気だった。
左右には深い緑が続くものの、足元は明瞭で歩きやすく、歩幅の狭い遊歩道のようにな印象。
粘土質の滑りそうなところには、わりと新しそうな足跡も残っていた。
高標林道
分岐から10分
分岐から10分と掛からずに、林道の終点に出た。
地形図から距離感は分かっていたものの、あまりにあっさりと登山道が過ぎてしまった。
ただ高標林道も、林道とはいっても未舗装で泥濘が多い。
道路脇には案内板や林業の目印のようなものが目につくが、何だか分からない動物の鳴き声も聞こえる。
人工物が近くにあっても山が深いことには変わりがない。
動物の鳴き声が聞こえたときに、何ものなのか判別できないから嫌なことが先に浮かぶ
車が擦れ違うことができる程度の林道を延々と歩く。
特に目新しいものもなく、ただ道路に沿って下りながら、ときどきの登り返しがある程度。
半分ほどが過ぎたあたりで、ドロの多い足元から比較的新しい砂利に変わり、それも下りていくとまたドロに変わった。
緑や動物の鳴き声が楽しめないとなかなかに退屈で我慢の林道といったところだった。
例えるなら新穂高と白出沢の間の林道みたいな・・・