中房温泉へ
燕岳への登山口のある中房から有明山へ登ることができる。
夏は中房への車の乗り入れが規制されることがあるため、できれば余裕を持って前日から駐車場に入りたい。
規制の場合は穂高温泉郷からタクシーやバスを待って中房へと向かうことになり、タクシーは片道5000円、バスは1200円ほどとなっている。
良くも悪くも人が多いためタクシーは乗合がしやすく、時間さえ間に合えばバスの本数も多い。
中房へと向かう登山者が多く穂高温泉郷で車の乗り入れが規制されていた。
その可能性はあると思いながらも、思っていたとおりの事態に登山口到着前から計画が狂った。
バスの運行時間まで1時間待ちで、タクシーの方が早く到着できるということもあり、30分ほど待って他の登山者と乗り合わせてタクシーへ乗り込む。
タクシーの中で話を聞くと朝3時には中房へ車を入れることができなくなったこと、平日も晴れているので混雑はピークでは無いことを聞いた。
有明山荘は宿泊者のみの駐車場開放となり、中房では第2駐車場の手前にまで路肩駐車が見られた。
中房からはほとんどの登山者が合戦尾根へ向かっていくのを見ながら第2駐車場へと向かい、駐車場奥にある登山口から有明山へと入って行く。
混んでいるとは思っていたけれどここまでとは・・・
登山道の横に流れる沢を見ながら登っていくと三段の滝の真下を通った。
水流が細くいくつにも分かれて流れ落ちる滝で飛沫が涼しい。
しばらく滝を見上げたあと、裏参道の急登へと入っていく。
草が刈り払われ踏み跡も見られるが、序盤は高く繁ったところも多く登山道が分かりづらい。
5分ほど登ったところで山頂への道を少し外れていくと、展望台のようになった狭い場所で行き止まり、三段の滝の上部を眺めることができた。
山頂への登山道に戻り、急登を折り返して登っていくとすぐに有明山荘からの合流地点にあたり、少し登ったところで丸太のハシゴに差し掛かった。
急登を登ると右へ巻くように斜面が緩まり、折り返していくと木の枝が開けたところから表銀座の稜線が見えた。
全体を通して眺めは無いのだろうなと諦めてる
急斜面を真っ直ぐに登っては緩斜面で巻いていくという登山道で、ときどき表銀座が見えるという景色の繰り返しだった。
山頂までの高低差はそう高くないため、少し登れば平坦な山頂部が見えるのではないかと期待しつつも、なかなか眺望を得られるところもなく、40分ほど登ったところで尾根上の狭い斜面に変わったところで見上げると青空が近く、ところどころで陽射しが明るく差し込んだ。
危険な箇所というほどではなくても、踏み外したり躓いたりすれば間違いなく怪我では済まない高さで、それを見かける度に緊張感は高くなる。
この山は6月に来なきゃなところ?
裏参道最初の鎖場は1時間ほど経ったところ。
岩壁を水平に渡るところで鎖が打ち込まれていた。
ちょうど木々が開けていたため、景色を見ると大天井岳から横通岳へと続く稜線が見え、大天荘が小さく見える。
鎖場を過ぎるといったん足元は緩やかになったものの、その後にやってくる急登は段差が高く、まるで壁を登っていくかのような急斜面。
階段のように岩に足を掛けて登り切ると、まわりにはシャクナゲが群生していた。
トンネルのように廻りを覆う様子は、6月に花を見ながら登らなければならなかったかと期待値が上がる。
いっぱいのシャクナゲも急登と高い段差を登るのには少し邪魔で、背負ったリュックを時々引っかけながら潜り抜けて行く。
木の隙間から差し込む光りも多くなり、山頂が近いのではないかという思いがなかなか叶わないまま急登を繰り返し、登山口から1時間半ほど経ったところで、裏参道の核心部へと着いた。
視界の開けた岩場で、ほんの5mほど下る鎖場。
足元は狭く、その下へと落ちていく高度感が緊張感を煽る。
かわりに眺めが良く常念岳が遠く美しく見えた。
岩場を過ぎると、木の間から山頂の峰が見えた。
緩やかな稜線からポコリと飛び出た峰で、見るからに高低差もなく山頂が待ち遠しくなる景色だった。
山頂を見て安心したのも束の間、鎖場から横に歩いて高い段差とハシゴを下り、ハシゴを登って狭い鎖場を渡るという登山道を進み、何度も繰り返した急斜面の直登を過ぎていく。
もう急登も高度感も飽きてきた
登り切ると八合目の石碑があり、緩斜面に変わった登山道を進んで行くと山頂の稜線へ出た。
稜線の分岐を右へ行くと有明山山頂の北岳、左は東餓鬼岳へと続く。
いっぱいの緑の中にシャクナゲの群生が見られ、針葉樹の枯れた落ち葉のところどころに岩が顔を出している登山道。
山頂に近づくにつれて緩やかな勾配は角度を取り戻していくようで、山頂間近では岩の段差が高く一気に標高を詰めていく。
有明山山頂
中房の登山口から2時間10分ほどで有明山北岳に到着した。
中岳、南岳と3つの峰の中で北岳が最も標高が高く山頂とされている。
避雷針にもなるという金属製の鳥居と、有明山神社奥社の社殿、その横には小さな社殿が荒れていた。
背後にある北アルプスの稜線は樹林帯のために眺望が限られ、東側の松川村や池田町を見下ろすことができた。
暑く霞んだ景色の中、浅間山の山影を見ることができ、山頂から少し移動すると大町市の背後に聳える山々や、餓鬼岳や東沢岳を見渡すことができた。
山頂から中岳や南岳への縦走も可能で、表銀座の稜線を眺めるのならば中岳へ行った方が良いようだ。
大きなアブがいてゆっくり休めなかった・・・
北岳で少し休憩をし、予定通り表参道を下りる。
有明山表参道を下りる
タクシー代をケチって直接有明へ下りるんだ
急勾配のために思ったように進まない足取りと緊張感の連続でいっこうに距離も時間も捗らない。
有明山の東側を下りる表参道は、山頂直下から一気に高度を下げていく。
裏参道の急勾配を上回るような、登りだとしたら思いやられるような、そんな角度での下り坂と段差の高さが続く。
ロープが張られているところも多く、ハシゴが設置されているところも次々と通過する。
山頂を出発してから約1時間。
松川村側の馬羅尾根と穂高温泉郷への分岐点になる落合へ到着した。
北アルプス前衛だと思って気を抜いてたと思う
地形図を見ると、ここからさらに急激な下り坂が続く。
一面、笹に覆われた下り坂が続き、胸ほどの高さの笹は足元を確認するのも難しい。
笹の下り坂を過ぎると、裏参道を思わせるようなハシゴと鎖場、そして急な尾根の下り坂が始まる。
尾根の幅は広くなく、両側には山壁が高く落ちている。
テープを見失ったことでの道迷い
落合の分岐から30分と経たないところで、この下山ルートで一番の失敗をした。
岩の高い段差を手を使って下りたところで、ルートを示すテープを見失った。
地形図には「荒廃」と「テープ見失い注意」を示すような記載があったことを思い出し、この場所がそこかと思い込み、足元に打ち棄てられた丸太橋に足を置いた。
見れば急な斜面の草木が開けているような踏み分けられたような跡が見える。
さらに下には笹の中に一本の筋が通っているのも見える。
「おそらくあれが登山道だろう・あそこを目指せばテープが見えるかもしれない」という思いで、木々を伝いながら急斜面を下りた。
ところが笹の筋に近づくにつれて登山道ではなく水の通り道だったことが分かり、さらには高い崖がすぐ近くに迫っているのが見えた。
これは下りると失敗するパターンだ
足を取られることがあれば、笹に乗って滑って崖に近づいてしまう可能性もあり、テープを見失った場所から離れないよう登り返すことにした。
下りてきたとはいえ急な登り坂はロープや鎖も無いために頼る物も少ない。
なんとかテープまで戻ることができ、周囲を歩き回って見失ったテープを探す。
尾根はそこで終了し、高い岩の崖になっている。
その間際まで進んで、木の根を覗き込んで見たところ、その先にペンキのマーキングを見つけた。
テープを見失ったと思っていた背後に、実は登山道が続いており、岩を潜るようにして登山道が続いていたようだった。
手を使って岩から下りたために背後の印に気が付かず、足元の人工物をルートと信じたことによる道迷いだった。
まさか岩を下りた背中にテープがあるとは思わないでしょ・・・
急な表参道の下山路
急な下り坂は延々と続いているように思えた。
ハシゴを下り、ロープを下り、そろそろ急な斜面も終わっても良いのではないかと思っても、次々と同じような場面が現れる。
水平距離にしても長く続いているわけではなく、明らかに体感時間で実際よりも長く感じているのを自覚していても、それでも急斜面が長く感じられた。
道に迷った場所から30分ほど下ったところで白川滝に出た。
右手側に見える高い岩壁の隙間から、細かな飛沫が注ぎ落ちてくる。
沢に出たことで急な下り坂が終わったような安心感もあり、しばらくそこで滝を眺める。
ここからは沢沿いに下りていくルートが続く。
写真:土屋氏
ただ思っていたような急斜面の終わりというわけにもいかず、細かな登りと急な下りが繰り返される。
斜面をトラバースするような地点も多く、決して楽な登山道というわけにもいかなかった。
白沢滝から30分と掛からない地点で妙見滝を通過、厚い樹林帯の下り坂が続く。
見える景色が変わらず、延々と続く下り坂はひたすら我慢の時間という雰囲気だった。
体感時間は実際の3倍くらい
下山を開始して3時間ほど、登山道上に唐突に登山口の看板が見えた。
登山口の雰囲気も無く沢を渡る橋が見えただけで、その看板が本当に登山口を示しているのかも疑わしかった。
橋を渡り10mほど歩くと舗装された道路が見え、どうやら林道の終点のようだった。
ここから車道へは約10分。
ひたすら車道を目指して舗装路を下りた。
車道に出たら有明の駐車場まで歩くのが残っていたけども。