日帰り笠ヶ岳のクリヤ谷へ向かう
新穂高へと向かう県道475を中尾高原口へ。
長いトンネルを抜けてすぐに橋を渡ると、右側に30台ほどが停められる駐車場がある。
ハイシーズンは登山予定日前に駐車場が埋まってしまうこともあるため、前日から車中泊をして過ごす人もいるほど。
混んでいると思った
朝5時の出発に向けて、中尾高原口へ向かう。
まだ陽の昇らない時間帯に駐車場に着き、空きは2台分だけだった。
夜が明けていくのをしばらく待ち、薄暗くなってから準備を整えて槍見温泉へと向かう。
中尾高原口から少し県道を下る。
トンネルの手前で右へ曲がり、林道を歩いて行くと5分ほどで槍見温泉に到着。
この温泉は日帰りやっているのかな。
帰りに寄れたら良いな。
登山口は建物の横、道路から入っていく。
登山届けを出すと、すぐに急な登り坂が始まる。
場所によっては尖った巨石が登山道上に転がり、その段差を踏みしめて登っていく。
そんな気はしていたけれど、序盤からけっこう登る
写真:神林さん
湿度が高く、濃い緑の木の葉とシダ植物と、少しだけの花が咲いた登山道。
折り返しながら高度を上げ、なだらかなところまで登りきると、右手側に見える谷から沢の音が大きく響いて聞こえてくる。
クリヤ谷のコースは渡渉を何度か繰り返す。
谷の下で聞こえてくるあの音へ近づくために下りるのか、あの音の上流まで登山道が続くのかと考えながら先へ。
沢へ渡るために下るんじゃ嫌だな
渡渉を繰り返す
最初の渡渉は、登山口から33分ほど歩いたところだった。
川の水量が多く、渡る場所を探しながら石の上に足を置くと、ソールのグリップが効かないほどに滑りやすく、もう水に足を浸けた方が安心なんじゃないかと思うほど。
バランスを保ちながら最初の渡渉を過ぎ、川から木々の中へと戻っていく。
滑る。。。こんなに滑るのか?
左側に沢を見ながら厚い緑の中を折り返し、登るというよりは深く移動していくような感覚で、なだらかな登りを過ぎていく。
15分ほど進んでいくと頭上の木々が少し開け、その先に険しい岩壁が見えてきた。
錫杖岳が見える
かっこいい。。。
まだ白んでいる中で朝陽を受けて見える錫杖岳。
クライミングの技術がなければ、どうやっても登れないのだろうと、ひとめで分かるような山容だった。
そんな山へ自分が登ろうとすることは無いだろうと思いながらも、あの山へ登るにはどこを通るのだろうかと、木々の間から見える範囲で想像し、どこの斜面なら登ることができるのだろうかと思いを巡らせた。
左側には沢が流れ、その音を聞きながら錫杖岳へと近づいて行く。
気が付くと、右側の頭上には錫杖岳とまではいかないまでも、高く垂直な岩壁が聳えていた。
それまで錫杖岳に見惚れて視界にも入っていなかった右側。
上から岩が落ちてくるんじゃないかって思うくらい。
葉が茂った中から見える岩壁は、もしかしたら落石があるかもしれないと不安を煽るようでもあった。
登山道の周りに、崩れたような形跡も、落下してきたような跡も見られないので、きっと思っているほど崩れやすくもないのだろう。
それでもチラチラと上を見ながら、岩壁の高さに驚きつつ、登山道を登っていく。
そのあたりの登山道は北アルプスらしい、尖った巨石が敷き詰められたようなガレ場だった。
傾斜は緩いものの岩の先を渡るような登山道。
さらに15分ほど歩いたところで、錫杖沢出合いに到着した。
ここから錫杖岳へ行くのか。
錫杖沢出合いから、錫杖岳のおそらく登るのであろう沢や藪を見て、また想像を巡らせていく。
その想像も終わらないほどすぐに、ふたつめの渡渉になった。
岩と緑の中から流れ落ちる澄んだ水。
ここで遊ぶのも楽しそうだと、錫杖岳の存在を忘れたように別の想像を膨らませて、川の中を眺めてみる。
ここの沢は本当にキレイだった
もしかして、この岩の下って寝られるんじゃないか?
川岸へ段差を登ると、巨岩とその下には草が開け、平らな空き地のようになっていた。
ここでビバークでもできそうだと眺めてみると、誰かが寝転がったように笹が敷かれて残っていて、傍らにたくさんの燃えかす。
この場所で夜を明かしたのだろうというのは想像がつくところで、登山口からもそう遠くはない場所にも関わらず、何をしていたのだろうかと。
ゴミの燃えカスみたいなものも散らかってた
また渡渉か。
たしかに多い。
すぐに次の渡渉地点があり、ついさきほどの渡渉の上流を渡る。
おだやかな流れと、澄んだ水は眺めていても気持ちが良い。
その沢を左側に見ながら登山道が続いていく。
錫杖岳は振り返るほどの位置になり、次の涸れ沢の渡渉を過ぎていく。
厚い緑はますます鬱蒼としてきたようで、湿気た登山道には巨大なヒキガエルがのそのそと歩いていることも。
カエル!大きい!!
このあたりは傾斜が緩く、迫り出してくるような緑が多いものの、歩きやすい登山道が続く。
手元の地図を見ても、渡渉を過ぎたあたりは等高線の間隔が広い。
急登と高い高低差のイメージがあるクリヤ谷も、ここまでは比較的なだらかで、序盤に時間を巻いていくような登山道が続いていく。
よく分からないけれど、あれを越えると思うのです
木々の間からは、高い岩の先端が見える。
あの先端はおそらくこれから登山道として越えて行く。
5分ほどしてもうひとつの涸れ沢を渡渉。
登山口からは1時間30分近い時間になっていた。
周囲には草木に混じって笹も多く繁り、ちょうど腰ほどの高さで朝露がズボンを濡らす。
登山道もけっして踏み跡がないわけではない状態で、ただ葉が迫り出しているので、濡れるのを避けようとしても逃げ場も無く、歩いていくほどにズボンがびしょびしょになっていく。
もうね。ビチャビチャで。
このあたりから、緩かった勾配もだんだんと急斜面へと変わる。
ところによって高い段差と、細かな折り返しを繰り返していく。
急斜面になっていくほど笹は視界を遮り、足元がよく見えないような場所も多い。
振り返ってみると、木々の間から焼岳が見えてきた。
上高地から見える美しい円錐形とは違い、北峰と南峰のと荒々しい山肌も見える。
焼岳でも見えるとテンションが上がる
地味。
なかなか先の見えない我慢の登り坂。
九十九折りの急登で、どんどんと標高を上げていく。
30分ほど登って、谷側に穂高岳が見晴らせるようになった。
朝陽の影になって見える穂高岳のシルエットは、鋸型で荒々しく、ひとつひとつの峰が誘うようにも思えてくる。
穂高岳!
笹が迫り出した九十九折りの急登は、なかなか終わりが見えないものの、下から見えていた岩の先端は徐々に近づいているような気配もある。
穂高岳と比べて、西穂ロープウェイよりは高いだろうか、西穂山荘よりは高いだろうかと思いながら眺める。
ところによって登山道が荒れているところもあり、倒木で道を塞いでいるところもいくつか。
それを迂回するようにテープが付けられているところや、すでに整備されているところもあり、状況に合わせて登っていく。
急登を塞ぐ倒木とか歩きづらい
笹も多いし・・・
1時間20分ほど登って、最終の水場を過ぎ、木々もまばらに変わった。
まわりへの見晴らしが良くそろそろ森林限界も近いのではないかという雰囲気だった。
さきほどまで笹と木の間から見えていた穂高岳は、その麓までも見えるように景色が変わり、下山予定の新穂高ロープウェイを見下ろした。
錫杖岳は遠く離れ、見上げていた山頂部を上から覗き込むような景色に見える。
あの下から見た岩の先端への取り付きは、背の低い笹と真っ白な岩の登山道だった。
錫杖岳って裏側はなだらかなんだ
風の通り気持ち良く、陽を遮るもののない暑さはあるものの、気分の良い景色が広がっていた。
岩の先端を巻くようにして、今まで見えていた裏側へと巻いていく。
ようやく見渡しが良くなった登山道は、ふたたび木々の中に入ってしまい、背よりも高い笹とハイマツが周りを囲む。
完全に裏側へ回り込むと、ハイマツに囲まれた中から一際高い峰が見える。
ようやく北アルプスの高峰らしい景色で、その雰囲気に気持ちが高まるようだった。
地図では、クリヤ谷の行程の中で2箇所ある等高線の間隔が広い部分。
ここからしばらくは高度を上げることなく、横へ移動するような登山道が続く。
ただ実際は、高度が上がっていかないだけで、登山道上はなかなかに厳しい。
細かなアップダウンがとても多く、その上、足元は陽が当たらずに薄暗く陰ったガレ場。
湿気た石ばかりが続くために滑りやすい。
山側からハイマツが生えてるものだから。
谷の方へ体が押されてバランスを取るのが大変。
そんな状態での段差の登り下りは注意をし続ける必要があり、地図で見た印象以上に体力が削られていく。
場所によっては深く切れ落ちているところもあり、その真下に見えるのは新穂高。
まるで崩れかけたような崖の上に立つようで、足元の脆さには怖いものがあった。
ただ槍ヶ岳への眺望は良い。
大変すぎて槍ヶ岳とかどうでもよく思えて来た
笠ヶ岳見えた!
ハイマツの中、ガレ場のアップダウンは細かく続いていく。
九十九折りの急登からひとつめの峰を巻き、すぐに見えたもうひとつの峰を巻くようにして登っていく。
するとハイマツの切れたガレ場の上から、ようやく笠ヶ岳の山頂を見ることができた。
あの山頂部まで、距離も高低差もそう多くは無いはず。
にもかかわらず、この場所からはどう見ても遠く、あの高さまで登れるのだろうかと不安しかない。
等高線の間隔に騙されてはダメだ
足元は相変わらずのガレ場。
湿気た滑りやすさに加えて、山側から迫り出してくるハイマツ。
登山道を覆うように茂っているため、通過するたびに谷側へ押されるようで、足元を見ながら押される圧力にバランスを保ちながら。
そこまで多く過ぎてきた笹が迫り出すようなところとは違い、ハイマツの固い枝を避けて歩くのは気を遣う。
景色に見惚れて気を抜いて歩こうものなら、足を置いた岩は滑るし、ハイマツは谷側へ向かって押すし。
高度感のあるような鎖場や、狭い細尾根でもなく、危険な場所とは思えないような場所にも関わらず、とても山頂部や周囲の様子ばかりを見てもいられない。
ハイマツが大変で景色とかどうでも良い
雲の中に霞んでいる白山や、どこかの雲に隠れてしまっている御嶽山など、山頂からではなくても楽しめる景色はあるのに、このハイマツが邪魔をして体力が減っていくことにしか気が向かない。
山側を見上げると、今にも崩れ落ちてきそうな形に岩が切り立っている。
岩同士が安定して何かがあるわけでなければ、簡単にも落ちてくるわけではないだろう。
ただ、なぜそこで切り立っていられるのか不思議に思うような形だった。
ヒビが入っているように見えるのだけど。
あれは噛み合っているってことなのか?
なかなか思ったように近づくことのできない山頂。
やっと山頂への登りに取り付き、その先の長さに気が滅入りながら、登山道に沿って斜面を折り返して行く。
そんなイベントはいらない
ここで何気なく振り向いたとき、ハイマツの中を走る黒い塊が見えた。
カモシカのようにも見えた横顔。
その真っ黒な姿と、体の大きさは明らかに熊。
ハイマツの中へ埋もれるようにして走って行き、あっという間に姿が見えなくなっていった。
ただハイマツだけ揺れて、そこにいるのだろうという様子で。
辛いと思っていたけれど、地道に近づいてきたんだな。
なかなかに遠くいっこうに近づかないと思えた山頂も、地道に歩いていくとふとした時に距離が縮まっていることに気が付く。
思いがけず、すぐ近くにまで歩いてきたことを嬉しく思いながら、あとどれくらいで山頂に立てるだろうかと時間を予想する。
槍ヶ岳や穂高岳には東側から上がってきた雲が見え始め、あまり時間を掛けていると景色が楽しめなくなる可能性がある。
快晴とはいかなくても、笠ヶ岳にきたのだから槍ヶ岳と穂高岳は見たい。
あの雲より先に山頂に着くんだ!
山頂の稜線へ近づいていくと、チングルマが目立つようになり、あのタコの足のような独特の形が揺れていた。
これ。。。
ようやく長い登りを終え、山頂への稜線上に立てたとき、そこで笠ヶ岳が見覚えのある形に見えた。
これは前常念から見る常念岳に似ている。
短いながらも左右に絶景を見ながらの尾根と、その先に見る尖塔の山頂。
ここまで苦労したありがたみも感じられないと思いつつ、なだらかな傾斜を登っていく。
三股からのアレに見える
写真:神林さん
体は動かないのに口は達者
平たい角の立った石がゴロゴロとした登山道で、足を乗せれば滑り落ちていきそうな雰囲気。
ひとつひとつの段差を踏みしめていく。
振り返って見える景色は相変わらずで、少し遠くなった焼岳と、真下に見えるようになってきた新穂高。
新穂高から見上げられる景色を歩いているのが気持ちいい。
左へ右へと曲がりながら、ガレ場を登ってようやくクリヤ谷を登り終わった。
安心感しかない
笠ヶ岳山頂
登山口から5時間3分、笠ヶ岳の山頂に到着した。
決して広くはなく、平たい岩がいくつも積み重なったような足元。
槍ヶ岳や穂高岳をはじめとして、北アルプス南部の山々を見渡す景色は展望台のようだった。
登ってきたクリヤ谷は、山頂から見下ろすとますます厳しく、少し前の自分は大変だったろうなと他人事のようにも思えてくる。
おつかれさまと言いたい
雲が多くなってしまったので、北側や遠くの山々までを見渡すことができないものの、焼岳や杓子平までの稜線は楽しむことができた。
名残惜しい気もするけれど。。。
雲が上がってくる中でしばらく景色を楽しみ、山頂から少し移動して祠の前へ。
橋を渡るような細いガレ場を歩くと、まるでふたつの山頂があるかのようにも見える。
山頂直下にある笠ヶ岳山荘はそこからすぐで、下りても10分と掛からない。
ガレ場のような足元はクリヤ谷側と違っていて、安定しているように感じられ、安心感を持って歩くことができる。
きっと歩く人の数が違うのだろう。
なんて歩きやすいんだ
笠ヶ岳山荘へ
山頂を下りて笠ヶ岳山荘へ。
休みながら食事を取って体力を温存。
山小屋でお世話になるのは久しぶりで、お願いをした1杯のラーメンがとても贅沢なものに思えた。
登りで疲れた体を休みながらすすっていると、このままここで眠りたい気持ちになってくる。
今度、笠ヶ岳へ来ることがあったら、そのときは泊まれるようにしたい。
寝たい
笠ヶ岳からの下山
休んでいる間に雲はどんどんと上がってきて、槍ヶ岳や穂高岳はすっぽりと隠れてしまい、ともすれば笠ヶ岳も真っ白になってしまいそう。
少し慌てる気持ちで準備を整え、笠ヶ岳山荘をあとにする。
大きな石のガレ場を下りてテント場へ向かっていく中、向かう稜線へどんどん雲がかかっていく。
トイレへ行くためにはガレ場を登らなければならないというテント場には1張りだけ。
さすがにこれから崩れる天候の中では人が少ないだろう。
良いところだった笠ヶ岳。
でもきっと2度と来ない。
写真:神林さん
笠ヶ岳の稜線
すっきり晴れたところで稜線を見たかった
名残惜しい気持ちを持ちながら、たびたび山頂を振り返って雲がかかる心配をし、その眺望を楽しんでいく。
遠くの山から見える笠ヶ岳の稜線は、遠くからは平坦で気持ち良さそうに見えるものの、実際にそこを歩くと意外なアップダウンがあり、特に下山では太股へのダメージが大きい。
帰りなので下りるだけにしたいのが正直なところ。
雲は増えていくばかりで、景色はどんどん白くなる。
稜線の中間地点にある抜戸岩を抜けたころには、笠ヶ岳の山頂も半分ほどは白い雲に覆われていた。
だれか平らな道にしてくれないかな。。。
杓子平
約1時間ほどで双六岳へと続く分岐に到着した。
このまま稜線をまっすぐに歩いていけば鏡平。
ゆっくりと時間を掛けられるのなら、鏡平から双六岳へ行きたいという気持ちも沸々とする。
今回の下山は、右へと登って杓子平から笠新道を下りていく。
5分ほど登り、稜線を眺められる最も高い場所に立つと、すっかり雲に隠れてしまい、その景色を堪能する空模様では無かった。
杓子平へと下りながら、たびたび笠ヶ岳を見て雲の様子を確認する。
これからの天気を思うと、これ以上に晴れることはないと分かっていても、その存在感は気になる。
何気に杓子平って坂がきつい
杓子平へは階段のような段差の高い急勾配が続く。
土に埋まっているだけの巨石も多く、勢いよく体重を乗せたら、石を転がしてしまうのではないかとも思える。
花のシーズンも終わり、ただ地味な急勾配になってしまった杓子平を下り、また笠ヶ岳を見て雲の様子を確認をしてまた下りていく。
急斜面も下りきってしまうとカールの底のようで、なだらかで歩きやすい。
笠新道を下りる
笠ヶ岳の山頂からは1時間45分ほど。
杓子平の標識の前に立ち、笠ヶ岳と長い稜線とを眺め、ここから笠新道を下りていく。
あと2時間下れば終わるんだ
笠新道は高低差1200mほどをほぼ平坦なところもなく下り続ける。
この激坂は登るにも下りるにも厳しく、早月尾根などと比較されることもしばしば。
あまりに坂が続くので、ここで膝を傷めてしまうこともあるとか。
とはいえ、ここまでの行程を思うと、あとは下るだけで良いという安心感もあり、林道へ到着するのが待ち遠しくなってくる。
林道の横に流れている沢が見えるのだけどね。
近づいてこない。
大きな石の高い段差がしばらく続き、急な下りを折り返しながら標高を下げていく。
眼下には左俣林道の横を流れる沢が見え、そこまでの高低差が1000mもあるとは思えないほど近く感じられる。
杓子平からは樹林帯に入るのも早く、あっという間に木々に囲まれ、涼しかった風も感じられなくなった。
ただひたすらに続く下り坂。
ときどきハシゴが掛けられているのを下り、確実に下りているのになかなか近づかない沢が憎らしい。
標高2100mあたりから100mごとに看板が立てられ、現在地がどこなのか分かるようになっていた。
登りでは目安になりやすいこの看板も、下りではゴールが何メートルか分からず、あとどれくらい下れば良いのかと悪態をつく。
もう下りにも飽きてきた
体調不良
中間地点の1920mを過ぎ、ここであと1時間という文字を目にした。
コースタイムで1時間なら、1時間掛かることはないだろうと想定し、あと1時間ということを励みに下りていく。
ただその1時間がとてつもなく長く、手持ちの水は無くなり、風の無さに体温が上がり息も激しくなる。
手持ちの地図で、林道までの距離が残りが見えてきたころ、足首に力が入らず膝を曲げられない状態になった。
視界にはチカチカ光る物が見え、手首から先はシビれている。
なんか体調がおかしくなってきた気がする
これまでにそこまでは経験をしたことはあり、水が足りていないことは分かった。
手持ちが終わっていることと、終わりが見えていることもあり、あと1時間を歩き終わればと下山を急ぐ。
目がチカチカするのと手のしびれは前にもあった
でも今回は息切れも激しい
林道まで100mほどを残したところで一度休むことにした。
立ち上がりやすそうな段差を選び、そこに腰を掛けてリュックを下ろす。
水が足りていないので、なにか足しになる物があるか荷物の中を探り、出し忘れていた飲むタイプのゼリーを見つけた。
忘れていたので賞味期限も過ぎている。
ゼリーが良いのかは知らないけれど清涼飲料水だと思えば。。。
けれども飲まないよりは害が少ないのと、飲みたい欲求が強く、絞り出して飲みきった。
補給をしたところですぐに動けるわけではなく、腰を下ろしたまま少し休んでいると、シビれていたのは手だけではなく、両足も正座のあとのようにシビれていたようだった。
見えていたチカチカとしたものは消え、腰掛けていたらシビれも無くなったため、荷物を背負って立ち上がる。
さっきまでの力の入らなかった体調は元に戻り、疲労感で太股が張っている物の、歩けないような状態でもなくなっていた。
水分ってすごいんだな
地図でカーブの数を数え、下りながらカーブの数をカウントダウンしていく。
ただ数が合わなかった。
左俣林道で復活
笠新道を下りて左俣林道に到着すると、ホースから湧き水が流れていた。
笠ヶ岳から3時間25分ほど。
荷物を下ろして空の水筒に水を汲む。
900mlいっぱいに入れて水を飲むと、一気に汗が噴き出してきて、まるで水筒を頭からかぶったかのようだった。
腹が膨れるだけで飲んだものが全て出て行ってしまうようで、もう一度水を汲んで、ゆっくりと飲む。
滝のように汗が流れ出る。
そうしているうちに、さっきの疲労感がなんだったのか分からないほどに回復できた気になり、そこからの林道は今にも走れそうなほどだった。
調子に乗るとあとで痛い目に遭うので、歩きやすいペースで林道を進み、右側に高く笠ヶ岳を見上げる。
ちょうど暮れていくところで、雲と山の影から陽が差し込むのが見えた。
下山での林道歩きは意外と長く、ゲートまでの残り30分は少し退屈でもあった。
あの水になにか入っていたんじゃないかって思うくらい元気になった林道
中尾高原口へ戻る
近道はどこだ・・・?
新穂高への到着し、駐車場へ戻るためにロープウェイ駅へ。
ゲートから少し下ると近道があり、橋を渡ってバスの時間を確認する。
高山行きの路線バスで、中尾高原口まではバス停3つめ。
230円ほどで戻ることができる。
ほとんどが登山者で、その中に観光客が混じっているような雰囲気だった。
登る前に「このへんは全部北アルプス南部の前衛なんだ」って悪態をついたバチが当たった気がします。