石尊神社から登る水晶ナギ経由コース
南アルプスから尾根を伸ばした北東端に位置する雨乞岳。
東側には南八ヶ岳が聳え、間近には甲斐駒ヶ岳をはじめとした南アルプスの稜線が迫っている。
その昔、雨乞の儀式が行われたという山で、登山口にある石尊神社で参拝を済ませてから山へ向かっていたという。
雨乞岳はいかにも信仰があったのだろうという山名
雨乞岳の見どころといえば、1700m付近の水晶ナギ。
木々の生えていない水晶ナギでは砂礫が白い砂浜のように広がる。
山全体が花崗岩でできているそうで、間近にある日向山からも目立って見えていた。
日向山の有名なビーチから水晶ナギを見てから、あの一帯からの景色を目にしてみたいと考えていた。
日向山で見たときに、あっちの方が眺めが良いだろう?と思いました
駐車場から3分ほどの登山口
水晶ナギを見ることのできるコースは石尊神社から登る。
神社の前に15台ほどの車が停められるスペースがあり、そこから3分ほど歩いた所に登山口が設けられていた。
道路脇の擁壁の切れ間から階段が伸び、樹林帯の斜面に向かって登り坂が続いて行く。
山の斜面を折り返して登山道が作られているためか、勾配はとても穏やかで、落ち葉が積もった足元は柔らかくて歩きやすい。
ほどよく広く、草が茂っているところもほとんどなく、日向山に似た登りやすさがあった。
ただ登山道の周りがこんもりと高くなっているため、見上げる以外に眺望は無く、木々の間から街がチラリと見えることや、光が射し込んで眩しいということもなかった。
ただ朝陽が黄色く葉を透かして、視界が少し黄みがかったように思える程度。
山の朝陽は気持ちが良い
20分ほど緩やかに
20分ほど緩やかに折り返しながら登っていくと、南アルプスらしい斜面のトラバースに差し掛かった。
急勾配の斜面を横切るように登山道が作られているため幅が狭く、谷側は深く落ちている。
ただ木々が多く茂っているために高さを感じるようなこともなく、ただ平坦に登山道が続いていく。
いったん尾根のような地形になり、ここから多少は空気が流れるのが分かったり眺望があったりするのかと思うと、また尾根の肩を歩くような、こんもりとした土の間を歩く。
よほど緑に囲まれて歩くのが好きか、今のような紅葉のシーズンでなければ、なかなかに忍耐が必要だというような登山道だった。
なんにも見えない
登り始めて1時間
登り始めて1時間ほどが経ったころ、左側の木々の間から景色がチラリと見えてきた。
間近に見えるのは日向山。
雰囲気から察するには、まだまだ登山口と同じくらいの高さだろうか。
目指している水晶ナギの標高までも、まだまだ長くありそうだ。
日向山を見たけど、まだ登山口よりも低いんじゃないか?と・・・
1200mを越えたあたり
標高は1200mを越えたあたり、徐々に紅葉らしい色も視界に入ってきた。
赤や橙というよりは黄味が強い雰囲気。
歩きやすいフカフカとした感触と安心感のある広さの登山道は、序盤と比べて少し勾配がキツい場所が増えたように感じた。
地形図を見る限りでは水晶ナギまで2・3度ほど、角度がキツくなる場所があった。
なんか必ず「下山」って書いてあるのが気になりました
日向山の景色とは反対側、北面の山が見える場所では、すでに紅葉は最終盤で葉が散り始めているようにも見えた。
山梨の山はこれからが紅葉の本番では無いか?などと思いながら登っていた矢先で、思っている以上に秋が早く過ぎているようだった。
山梨の紅葉も終わりか?
登山道は相変わらず尾根の肩を歩くようで、こんもりとした中を登っていく。
木々も葉も厚く、身近なところの景色のみで視界が開けることもない。
それでも標高を上げていくに従って葉の色合いも変わっていくようで、黄味が強いと感じていた山の色が、1時間も経たないうちに楓のような赤が強く見えることもあった。
ホクギノ平
登り始めて1時間40分
登り始めて1時間40分ほど、ホクギノ平に着いた。
高い広葉樹の森で、足元にはびっしりと背の低い笹が生えている。
そのなかに小屋がポツンと建っている。
作業小屋?避難小屋?
避難小屋ではなさそうな雰囲気で、作業小屋かなにかかと目を凝らしながら、横を過ぎていく。
すると平坦な林のような場所に出た。
眺望がありそうな雰囲気のなかで、木々が開けているところもなく、合間からなんとなく水晶ナギのような白い山肌が見え、南アルプスのどこかの稜線が見える。
深い樹林帯で日影を歩く時間が長かったなかで、ホクギノ平は陽当たりが良く気持ちが良かった。
広々とした中を緩やかに下り、緩やかに上り、おだやかな雰囲気の林を過ぎていく。
笹もあるし熊が出たら小屋の金網の中に逃げればいいんだな
5mほどの段差を下りて細尾根を渡ると、ふたたび厚い樹林帯の中を登っていく。
視界には橙色が強く、登山道の両側には笹が多く茂る。
色づきも色の量もここまでの登山道で、いちばん華やかだった。
笹の濃い緑に紅葉が映え、ひとけの無さから静かさを感じられた。
一番良いタイミングで良い場所へきたかも
ホクギノ平から20分
ゆるやかに九十九折りを繰り返して、笹と紅葉の中を歩き、ホクギノ平から20分ほど進んだところで、急登に差し掛かった。
水晶ナギと山頂との分岐点の手前にある登りだった。
標高1700mを超え
さして険しいものではないものの、ここまでなだらかだった分、一気に登り詰めるような感覚だった。
そろそろ水晶ナギらしい眺めがあっても良いころだろうと、樹林帯に飽きてきたところでもあった。
標高は1700mを超え、いつ水晶ナギへ向かう分岐点が見えても良い。
そのわりには見るのは緑の濃い笹と木陰ばかり。
気持ちがキツイ
ようやく登り切ったところで、落葉松林に変わって一気に色合いや景色が変わった。
きつい勾配で登っていた登山道は、笹の中を緩やかに下っていく。
落葉松の合間からは、甲斐駒ヶ岳から北側の稜線と、水晶ナギのような白い山肌が近く見えた。
真っ赤になった葉の合間から見える水晶ナギの白さと、影になっている山の斜面がとても綺麗だった。
水晶ナギが見えた地点を過ぎて、また眺望が無くなったと思い足元を見ながら歩いていると、唐突に分岐が目に入った。
木に括り付けられた案内を見ると、山頂と水晶ナギが矢印で示されていた。
あまりに唐突で戸惑いつつも、予定通り水晶ナギへ向かうことにした。
想像では分岐は眺めの良いところという・・
まったく違ってた
2時間24分
登山口からは2時間24分。
ここまでで擦れ違ったり横を過ぎていった人はふたりほど、ここからは幾人かと擦れ違うことが増えた。
水晶ナギ
左側に深く落ちた谷を見ながら、なだらかに登っていく。
足元には笹が生え、木の合間を縫うようにして登山道が続いていた。
2・3分の登りのあと下りに差し掛かり、ふたたび登り返していくと急に眺望が開けた。
水晶ナギではないものの、そこは砂礫の斜面で、西側の景色が広く見える。
振り返って見るとこのあとで登る雨乞岳の山頂部。
ネットで見ていた景色ではないことや、まだ先に登山道が続いていることから、ここが水晶ナギではないことはすぐに分かったものの、あまりの景色の良さに足を停めた。
南アルプスが見えるし、山頂も見えるし、もうココでいいんじゃないか?
すでに満足感に浸っていたので、先に行かなくても良いか?という気持ちになりつつ、そもそもの目的が水晶ナギだったこともあったので行ってみることにした。
水晶ナギへは尾根の登山道を下りていく。
左右は深く落ち、細い登山道ではあるものの、草木が茂っているおかげで高度感もなく下りていける。
だんだんと明るさが近づいて、木のトンネルから抜けると、真っ白で明るい斜面に到着した。
出た
2時間34分
登山口からは2時間34分。
期待があまりに大きく、拍子抜けをした感がありながらも、数ヶ月間見たいと思っていた水晶ナギからの景色を見ることができた。
日向山は間近ながらも見下ろすように、南アルプスの山肌が近く、紅葉はすでに散ってしまっているようで鮮やかさはなかった。
富士山や八ヶ岳は角度的に見えないようで、韮崎方面の街と秩父の山々を見渡すことができた。
ここは山深い眺めというよりは、花崗岩の眩しさと陽を受ける心地良さを楽しむところのようだ。
腰を下ろしてしばらく水晶ナギからの眺めを楽しむ。
特に目を瞠るということもなかったものの、ここにきたことはそれなりに感慨深く、きっとそう何度も来るような場所ではないこともあり、なかなか腰を上げることができなかった。
こういうところで昼寝をしたら気持ちが良いと思います
水晶ナギから分岐へ引き返す。
尾根を登っていくと、山頂は間近に見える。
ただ見るからに斜面の角度がキツく、どこを登るのかと考える。
なだらかそうに見える尾根は、どう見ても遠回りでコースどおりでは無さそうだった。
あれ登るのが大変そう
水晶ナギから10分
分岐までは10分ほど。
山頂へ向かうとなだらかに下りていく。
まわりは笹と落葉松ばかり。
見上げると橙色と射し込む陽が気持ち良かった。
山頂へ
ゆるやかに下りて登り返しに差し掛かると、一気に角度がキツく変わっていく。
笹の中をまっすぐに登るような登山道で、盛りを過ぎて枯れたアザミがあちこちに生えていた。
膝下ほどの高さの笹は深く茂っているわけではないものの、足を進めるのに抵抗が感じられて歩きづらい。
ましてや山頂近くまで登ってからの急登で、太股の負担も大きい。
笹のカサカサが足にまとわりつく感じで地味に邪魔
いったん足を停めて一息入れると、ノビタキが近くの枝で囀っているのが聞こえた。
山頂へ向かって改めて登り出し、すぐそこに山頂部らしい雰囲気があるのにもかかわらず、なかなかに近づかない。
やっと落葉松の中を抜け出すと、ようやく山頂を視界に捉えることができた。
振り返ると清里方面の眺めが良い。
大菩薩嶺が近いな。とか思いました
雨乞岳 山頂
3時間21分
登山口から3時間21分、雨乞岳の山頂に着いた。
水晶ナギで見ることのできなかった甲斐駒ヶ岳が雲をまといながら高い場所に見えた。
日向山も見下ろす位置に見える。
あのビーチのような場所は、雨乞岳から見ると崩落した跡のようにも見えて、とても穏やかな場所とは思えなかった。
石尊神社から登ってきた尾根も、右左へと折れながら長く続いている様子が見下ろせる。
たくさんの木々が茂って柔らかな雰囲気に見える。
しばらく山頂で雰囲気を楽しんだあと、ヴィレッジ白州がある平久保へと下りることにした。
登山道と違って賑やかな感じがしたので、静けさを求めて下りました
下山
雨乞岳からの下山は平久保へ。
登山口との高低差が少ないヴィレッジ白州へ下りることにした。
山頂へ登ってくるときに、山頂直下の急斜面を下りることと、ゆるやかながらも登り返しがあるのは嫌だなと思っていた。
なによりも周回ができるコースなら、しない選択肢はないだろうという思いだった。
急斜面は登るのが辛いけれど、下りるのも辛い
平久保へ下りてから石尊神社まで7キロ以上の舗装路があり、その高低差400mほどのアスファルトをひたすらに下りていく。
それでも時間的には石尊神社へ下りるより早いだろうと思えた。
1時間くらいで登山口でロードを1時間って思ったら、石尊神社へ下りるのに2時間掛けるのと変わらない
山頂直下は急なところも多くあるものの、比較的なだらかで歩きやすく、登山道から外れない限りは危ないと思われるところも少ない。
甲斐駒ヶ岳を見上げることのできる場所もところどころにあり、樹林帯の眺望が少ない山ながらも、石尊神社からのコースに比べると楽しめる印象だった。
こっちの看板は登りと違って丁寧な感じ
ときどき見える眺望を楽しみながら、おだやかな登山道を下りていく。
標高1300mほどの地点まで下りると、だんだんと赤や橙の葉が多く見られるようになった。
そこまで笹が多く、落葉松があっても濃緑色の印象が強かった。
紅葉を見下ろしながらの登山道は、登りよりも華やかだった。
遊歩道的
1時間ほど下りたところ
1時間ほど下りたところで、木段を下りるような登山口に変わった。
幅が広く歩きやすいものの日影になっているところも多く、木段は滑りやすそうな雰囲気。
落葉松の間から見える近くの山肌は明るく、のんびりと歩くのも楽しそうだった。
だんだんと車道らしい雰囲気の木々の切れ間が見えてきた。
木段は設置されてから時間が経っているのか、草木が茂りだしているところも多くあった。
このまま朽ちてしまった方が歩きやすいと思う
1時間15分ほどの下山
下山は1時間15分ほど。
木々の間を抜けて林道に出た。
ここから石尊神社へ戻る。
道の脇に車が停まっているのを見ると、アスファルトの道路を戻るのが億劫になる。
このロードのためにザックに詰めてきた靴に履き替えて、長い下りを石尊神社へ向かった。
たぶん今回はここが一番キツかった