雨飾キャンプ場から大網峠へ
大網登山口は、小谷温泉から湯峠を経由して向かうルートと、北小谷から姫川温泉を経由して林道を上っていくルートとがある。
大糸線平岩駅から未舗装の林道を上るか、雨飾キャンプ場まで車で向かい、大網峠から通行止めになっている林道を歩いて下りるかという選択肢になる。
今回は、登りを大網、下りを雨飾キャンプ場と決めていたため、いずれにしても大網峠を歩いて下りる必要があり、登る前に歩くのか下りてから歩くのかという予定だった。
林道を長く歩くし、もしかして、台風の影響とかあるかも。。。
10日ほど前に台風19号で崩落がある可能性も考えると、雨飾山を下りてから大網峠に停めた車へ戻れない可能性も考えられ、ならば登る前に湯峠を歩いて通過することにした。
小谷温泉を過ぎて雨飾キャンプ場
紅葉が最終盤を迎えた雨飾山は、曇天の平日でも登山者がいる。
週末には満杯になる駐車場も、さすがに空きが多く、余裕を持って車を停めた。
下山予定の雨飾キャンプ場に車をデポ、準備を整えて上ってきた道を下りていく。
鎌池方面へと向かって大渚山登山口まで緩やかに舗装路を上っていく。
周りは雲の中に入ってしまっているようで、すぐ近くの景色ですら真っ白で見渡すことができない。
ただ間近なところと眼下に広がる紅葉だけは単調な舗装路でも楽しむことができ、序盤の道路を過ぎた。
大渚山登山口まで来ると、閉まっているゲートを避けて林道を下りていく。
アスファルトの舗装も終わり、荒れた砂利道が続く。
ただ、雲は東側に溜まっていたようで、それまで見えていなかった大渚山や糸魚川を見渡すことができた。
道路を巻いて下りていくと、真っ赤になった雨飾山も見ることができる。
満足度も高いし、もうココで帰って良いんじゃないか?今日は。
この林道を下りていくだけでも、十分に満足するんじゃないかと思うほど雨飾山への眺めが良かった。
ただ人の手が入った林道は、歩いて下りていくのにはあまりに単調で、テンションの上がった雨飾山の紅葉にもだんだんと見慣れていく。
なかなか見えてこない登山口と、見込んでいたはずの体感時間の長さにも飽きてきた。
標高1000mを下りたあたりから植生も変わり、あんなにも赤かった葉も濃い緑のままだったり、杉が見えたりとだいぶ様子が変わった。
そろそろ大網登山口だろうかと思い続け、ようやく着いたのは雨飾キャンプ場から1時間50分ほど。
8キロほどはあるだろうと見込んでいた登山口までのロードだった。
長かった。とにかく長い。
大網登山口から登山道へ
登山口の手前にある空き地には10台近い車が停められそうだった。
道路は未舗装で窪みも大きく、ここまで来られる車を選ぶのだろう。
登山口にはよく見かける注意喚起の看板と、入口を塞ぐように倒れている枝が1本。
この枝は、もしかしたら「通行止め」という意味なのではないかと勘ぐりながら、偶然倒れているのかもしれないという思いもあり、もし登山道を通れないのだとしたら、そのときは戻るしかないと登山口へ入って行く。
登山口に入ってすぐに登山道を下り、小さな川を渡る。
まずは渡渉から登り返していくのかと思っていたら、さらに下りは続いていく。
歩きやすい幅で、無理のない緩やかな下り坂。
足元はフカフカとしていて優しい。
一カ所、登山道が小さく崩れているところがあり、高く脆い段差ができていた。
ただ、なだらかな下りは延々と続いていく。
どこまで下りるんだろうか。
もしかして違うところへ行ってしまうとか。。。
登山口まで歩いた林道のように、雨飾山が見えるということもなく、見晴らせるというところがあるわけでもなく、青々とした木々に囲まれて下りていく。
登山口から15分ほど下り、斜面をトラバースするような急坂を下りたところで、ふたつめの渡渉のポイントに出た。
水量が多く、5・6mほどの幅がある。
うろうろとしながら渡りやすそうなところを探り、石を飛ぶようにして渡りきった。
どうやって渡ろうかと思った
川を渡った対岸は、途中、台風の影響からか川の中へ登山道が崩落しているところがあった。
山側のギリギリを歩いて足を踏み外すということもあるため、半分ヤブの中に体を突っ込みながら、枝を伝って崩落箇所を過ぎる。
川沿いを歩く登山道も短く、渡渉から崩落箇所を過ぎ、2・3分のところでハシゴに着いた。
高い斜面と5mほどの段差にハシゴが掛けられている。
いかにも柔らかい土の斜面で、ハシゴがシッカリと突っ張っているのかと不安に思いながらも、木の根に針金で縛り付けられているのを見て、いちおうは安心をした。
土が軟らかいだけに心許ない
ハシゴから先は、序盤のなだらかな下りから、いよいよ登山道らしい雰囲気へ変わっていく。
曇り空の下に紅葉が広がる斜面が見えたあと、山頂を繋ぐ尾根までの急登が続く。
いっぱいだった緑は、だんだんと紅葉を迎えたブナの黄緑に変わり、見た目にも華やかな景色が広がる。
おお!!って思った
ただ登り続ける登山道は太股に厳しく、呼吸も乱れていく一方。
登山口から50分ほど登ったところで、最初の水場を過ぎた。
登山道の脇から塩ビ管が突き出て、水が流れ出ていた。
右へ左へと折り返しながら、急登が続いていく。
登っていくほどに、木の葉の色が変わっていくのはおもしろく、いつの間にか黄金の葉ばかりに囲まれている。
落ち葉の積もった柔らかな足元と、登山道を楽しめる要素は多くあるように感じられた。
誰だ。単調でおもしろくないみたいなこと書いたのは。
水場から1時間ほど登ったあたりでは、ブナの黄色に混じって、赤い葉も見られるように変わり、木々が開けたところでは湯峠を見ることができた。
大網峠の林道ゲートがあった湯峠の高さまで登ったことを思うと、ようやく雨飾キャンプ場と同じ程度の標高まで戻ってきたようだった。
さらに20分ほど登ると、北側の木が開けた場所があった。
大きなブナの下で、長野と新潟の境あたりが見下ろせる。
ここからの登山道はさらに明るく鮮やかに見える。
頭上には黄や橙の葉が広がり、足元には笹などの草木の深い緑が続く。
さらに落ち葉の濃い色が敷き詰められたように続いていく。
橙色の葉の向こうに見える尾根までも橙色。
その色に囲まれて歩いていくのは気持ちが良かった。
紅葉というかブナの黄金色っていう感じ
20分ほど登って気が付くと、葉を落とした枝が多くなっていた。
登山道には落ち葉が多く、葉を残した木もわずか。
枝の隙間からは、雪を付けた小蓮華岳と白馬乗鞍岳が見えた。
景色が開けたブナの下から25分ほど、すっかり葉が落ちた木が多くなり、明るい登山道に変わっていた。
ルートは右と左と二股に分かれ、どちらへ進むとも看板がない。
いかにも登っていきそうな右と、向こうの尾根へ続きそうな左と。
手元のGPSを見て、なんとなくの雰囲気で右へ。
そのカンは間違っていなかったらしく、5分と登らないうちに尾根に出て眺望が開けた。
あとで地図を見て、どっちも行けそうなんだと思った
チラリと見てていた程度の小蓮華岳は、その周囲の山も合わせて見えるほど。
きっとこの中を歩いてきたのだろうという山の斜面は深く赤い。
山頂へと続く尾根を歩くことと、尾根から見る雨飾山の山頂部がこのルートのハイライト。
ただ先はガスっている。
どこかのタイミングで、一瞬でも山頂が見えることを期待しながら尾根を歩いていく。
右側を振り返って見ていた北アルプスと、左側には鬼ヶ面山や駒ヶ岳といった糸魚川の山々。
あの削ったエンピツのような尖った形は、とても登れる山には見えない。
一瞬で良いから・・・チラッとで良いから。
晴れるタイミングを期待している山頂は、ますますガスが濃くなっていくようで、なかなかに意地が悪い。
気持ちの良い尾根だけに、眺望も欲張りたいところだった。
ここから見る雨飾山の雰囲気は、まるで高妻山の山頂北面のようにも感じられる。
ただそれよりも、谷ふたつ隔てた鬼ヶ面山の存在感が強く、あの山の登山道はどうなのかというところに興味が出た。
左側に見えていた山はエンピツのように尖ってた
尾根はいったん細くなり、そこから山頂への登りが始まる。
雨飾山でもっとも急な登りのひとつで、狭く岩が露出しているところも多い。
特にこの日は露が付き、草や落ち葉で滑りやすいコンディションだった。
急斜面を登り切り、いったん緩やかになった尾根を歩く。
向かう先よりも振り返った景色が美しく、真っ赤な尾根や、うっすらと霞んで見える日本海、身近なところの葉に目をやった。
ただ、登っていく先に期待している山頂を見ることはできず、白さが増していくばかり。
登山道は間違っていないのだろうけど山頂がどこだか分からない
強い風に雲が流れて行く尾根。
山頂は全く見えず、きっとそこにあるという期待だけ。
周りには背の高い木や植物もなく、避けることのできない風に煽られて斜面に取り付く。
大きな岩が露出した急斜面で、登るほどに岩が多くガレていく。
浮いた石は多くはなかったものの、ここにきてのガレ場は太股に厳しく歩きづらかった。
ガレ場を登ったら山頂というつもりで、強い風と真っ白な景色の中を登ったものの、登った先には山頂らしきものはなく、山頂がどこかと思いながら尾根を進む。
右側眼下は深く落ちた谷で、尾根も岩の続く細尾根になっていた。
細尾根を過ぎるといったんハイマツの中に入り、そこから顔を出すと登りが終わっているのが見えた。
ようやく。
雨飾山山頂
雨飾山の北峰には、登山口から2時間30分だった。
長い急登に苦労しながらも予定していたとおりに登ることができた。
北峰には北側を向いた石仏が四体と祠が一基。
山頂の南峰へは1分ほどで行ける。
近い距離の北峰からでもうっすらと霞んでいる南峰へ。
大網登山口から2時間31分で到着した。
山頂からは北アルプスや頸城山塊の山々が見渡せるはずのところ、今回はガスが厚く、眺望は期待できなかった。
ただ流れの速い雲の中で、ときどき見える北アルプスや、崖下に広がる紅葉が綺麗だった。
しばらく西側の景色を楽しみ、山頂をあとにすることにした。
これ以上に晴れることは無さそうだし。
帰ってから用事もあるし。
雨飾キャンプ場への下山
南峰と北峰の間に雨飾キャンプ場へと下りる分岐がある。
雨飾キャンプ場や雨飾山荘へと下りることができ、金山への縦走路もこの分岐を下りる。
分岐からは高い段差と急な角度の下り坂で、足元を間違えれば、かなりの高さを転がりそうなところ。
ただ、ここからは雨飾山の象徴的な景色が見られる。
笹平を縫うように作られた登山道が女神の横顔のように見え、雨飾山に登ったらこれだけは見ておきたい。
なんにも見えないことは、登りの尾根で覚悟していた
今回は雲が多く真っ白な景色ばかりのため、それも諦めていたこともあり、サッと下りてしまおうと思っていた。
たまたま、そこを下りている最中にガスが晴れて綺麗な横顔を見ることができた。
ガスが流れて行く中で見る笹平は印象的で、山頂付近でようやく景色らしい景色が見られたようにも思えた。
笹平の眺めに喜んでいたところで右手側に視線を移すと、荒菅沢の燃えるような色づきが見えた。
こんなにも赤くなるものかと思うほどで、シーズンの最終盤、厚く曇った天気の下で、紅葉としても本調子ではないだろうコンディション。
そこでこんなにも赤く見えるのかと。
荒菅沢から迫り上がっている岩壁も相変わらずの険しさで目を惹く。
荒菅沢を見下ろして、まさかこんなにすごいとは思わなかった
笹平へと下り、なだらかなアップダウンを歩く。
糸魚川側へと下りる雨飾山荘への分岐を過ぎ、笹平を見渡す丘のような坂を登ると、金山縦走路の分岐がある。
ここからは笹平と尖った山頂部を見渡し、焼山を間近に見ることができる。
笹平を過ぎると荒菅沢への急斜面を下りていく。
緩斜面と急斜面を繰り返す下りは、紅葉した金山の斜面に向かって飛び出していきそうにも見える。
まるでジャンプ台のようで、向こうに見える紅葉の山へ飛び立ちそうに見えた
ひたすら下りていく登山道は、右左へ細かく折り返し、段差も高く、ハシゴやロープも架けられている。
樹林帯へ入ると、湿った粘土質の地面もあり、なかなかに気の抜けない下りが続く。
荒菅沢
急斜面を下り荒菅沢へ。
つい先ほどまで見下ろしていた岩壁は、荒菅沢からは見上げる場所に。
手前に見える緑と、徐々に橙から枯れ色へと変わっている色を楽しめる。
渡渉は序盤のような水量の多さも荒々しさもなく、渡りやすく石が並んでいた。
深田久弥はこの沢を登ったのだっけ。。?
渡渉を追えると登り返す。
ここまで下ってからの登り返しはキツく、ほんの10分ほどの登りに息が切れる。
振り返ると下りてきた斜面の紅葉が山肌一面に見える。
雨飾山もこの斜面で見納めになる。
ブナ林から雨飾キャンプ場
荒菅沢を過ぎてからの登山道は、雨飾山の象徴的なブナ林が続く。
どの季節であってもこのブナ林は美しく、紅葉シーズンは華やかに見える。
陽が高く昇った時間帯は葉を透かすようにも見えるため、特に明るく色が映えて見える。
ここのブナがとっても綺麗なのは知っていた
登山道上は水はけが悪いようで、水たまりや泥濘んだところに気が置かれていることも多かった。
明るく華やかなブナ林を見ながら歩いて行くのは楽しく、橙色がだんだんと緑に変わっていくのが惜しいようだった。
水の流れる音が大きく聞こえ始めると、キャンプ場が近くなってくる。
茶色い土の登山道を下り、木々の間から出るように平坦な木道の上へ。
脇を小さな川が流れ、その中に岩魚が泳いでいるのを見ながらキャンプ場へと戻った。
キャンプ場近くのイワナが毎回気になってる。