北沢峠から小仙丈尾根へ仙丈ヶ岳を登る
仙丈ヶ岳への登山口になる北沢峠へは車で向かうことができず、伊那市の戸台口から林道バスに乗る。
中央道伊那ICから1時間ほど。
高遠・長谷方面へ向かって県道152号線を走り、国道212号線を南アルプス方面へと向かう。
仙丈ヶ岳へのルートは北沢峠からスタート。
ただし、北沢峠のある南アルプスへはマイカー規制がされているので山梨側の広河原か、伊那市側の戸台口からシャトルバスで行くことになっている。
伊那市にある戸台口駐車場に到着したところでバスが出発したのが見えた。
山の支度を済ませ、トイレも済ませて時間を次回のバスの時間を確認すると、バスは6時の始発から1時間おきにスタートし、7時、8時とバスを逃すと次は2時間後の10時となる。
この日、見事にバスの時間の確認を漏らし、登山の支度を済ましトイレも済ませて時間を次回のバスの時間を確認したところで次のバスは10時だったことが発覚。
予定していたバスを1本逃しただけで2時間も待つことになった。
9時くらいにスタートしたいと思っていたのに。
宿泊を予定していた仙丈小屋には15時までに着くように言われており、10時のバスに乗って北沢峠には11時に到着。
そこからスタートして、3時間で登れば1時間の余裕がある予定に組み直した。
10時にバスに乗って11時にスタート地点の北沢峠について、3時間で登れば1時間の余裕がある。
戸台口からのバスに乗ると長谷の山の中を走る狭い道路を進む。
バスの運転手さんがところどころをガイドしてくれ、その話によると昔はバスではなく森林鉄道だったという。
狭い道路なのに急な山の斜面を登っていくために、その高度感はけっこうなもの。
中央アルプスも見えるばかりか、鋸岳や甲斐駒ヶ岳への眺めも良く、仙丈ヶ岳へ登る前からちょっと登った気にもなる。
北沢峠からの仙丈ヶ岳登山開始
登山口の北沢峠こもれび山荘は、すでに国立公園の中でケータイ電話も圏外。
小屋の前に仙丈ヶ岳への登山口があった。
登山口から樹林帯の中をゆっくりと登り始め、20分ほどで一合目と書かれた板が木に括り付けてあるのを見つけた。
この週末の天気は「曇りのち晴れ。ときどき雨。」そんな日が続いていた。
登山予定の土日くらいから回復して残暑に突入するような予報だった。
まだ雨が残る可能性も考えられる中で、良い天気になれば良いなと考えていた。
三合目から四合目まで来たころで、登山前から空に広がっていた雲が下がってきたようだった。
空気も湿気て雨の予兆を感じさせる。
雷の大きな音も遠くで聞こえていた。
雷の大きな音がする
五合目までくると馬の背ルートと小仙丈ヶ岳ルートの分岐に到達した。
もともとは登山所要時間の短い小仙丈ルートを予定していたが、先だって雷の音も聞こえるためにルートの変更を考えた。
五合目の分岐点でいったん昼食のための休憩を取りながらのルートの検討に入る。
昼食を済ませて片付けようかというときに雨が当たってきた。
大粒の雨で、降り方も激しい。雷も鳴っている。
尾根を通ることで雷の標的になるのも避けたいが、様子を見ながらも今回は先を急ぐため当初の予定通り小仙丈へと進んだ。
後日、この日に槍ヶ岳で落雷があり山頂部で死亡事故があったことを知った。
急登を登り小仙丈へ
背の高い木に囲まれた登山道も、このルートを通るとすぐに森林限界に達したようで岩と背の低い木が並ぶ場所に出た。
身の回りは真っ白にガスっている。
かろうじて近くの山の影が見える。
雨に濡れて寒いということもないけれど、やっぱり打ち付けられると、テンションも上がらないし、足を持ち上げるのも辛くなる。
強くなったり弱まったりする雨の中、右手に馬の背ルートの尾根が見えた。
眺望を楽しむほどの余裕も無く、ガレガレの道を上り、疲れた足をどこで休めようかとタイミングを計っている打ちに、中途段階の目的地だった小仙丈ヶ岳に到着した。
小仙丈に到着すると、仙丈ヶ岳頂上までの高さは残り300mほど。
視界は全く無い中、気持ちではもう仙丈小屋が見えていた。
さきほどまでガスに覆われて見ることのできなかった眺望が、ここにきて360度のあちこちに小さな雲を引っかけた山が並んでいるのが見えてきた。
雷の音も聞こえない。
少しカメラを構えようとしていると、みるみるうちに身の回りの白さが引いていく。
すぐそこに頂上らしき山が見えた。
ずっと同じ場所にいるのに、信じられないくらいにあっという間に景色が広がった。
小仙丈ヶ岳から先、仙丈ヶ岳へのルートには岩場が幾つかあり気をつける必要のある箇所もいくつか。
とはいえ、狭いところも高度感が凄いところも無いので自然を楽しみながら、どこかに雷鳥が顔を出すんじゃ無いかとドキドキしながら歩けた。
11時にこもれび山荘を出発し、仙丈小屋への到着は14時45分。
途中で約1時間ほどの昼休みをしていたことを考えると、ほぼ予定通りの3時間で到着した。
仙丈小屋は仙丈ヶ岳山頂まで30分の直下。
カールに囲まれるような立地で、東側には甲斐駒ヶ岳や鋸岳、その先には八ヶ岳が見える。
建物の前にはベンチが置かれ、景色を楽しむのにはちょうど良い。
荷物を置いて眺望を楽しむ。
それまで見えているだけで、どれが何なのか分からずにいたのだけれど、話し声を盗み聞きしながら、ずいぶん遠くの山まで見えることと、近くにある山の迫力を楽しんだ。
夜中、見上げた空は星がいっぱいで。
仙丈ヶ岳の稜線から、反対側の八ヶ岳へと続く満点の星。
地上には街の明かりが見えて、ところどころにうっすらと浮かぶ雲。
隙間も無いくらいに小さく光る星と、ところどころで大きく光る星と。
あんなにはっきりと流れ星を見たのは初めてだった。
どの星がなんていう名前なのか、星座のことも分からないけれど、とても綺麗で、ずっと眺めていたいような星空だった。
あの星空は、玄関いっぱいに張っている蜘蛛の巣にも似ている。
そして、掃除中に舞う埃もきっとあれくらいの密度なんだろう。
仙丈小屋は決して広く大きな小屋ではないが、3000m峰という標高の高さゆえの小屋の立地もあり、景色はとても良かった。
仙丈ヶ岳山頂へ
仙丈小屋から頂上へは30分ほど。
頂上から朝陽を眺めるのにも仙丈小屋は近くて便利。
この時季、日の出は4時57分だそうだ。
4時くらいに小屋を出て頂上へ向かえばちょうど良いと考えていたところ、早々にゴソゴソと音のする様子にいてもたってもいられず、釣られるように3時半には準備を始めた。
外に出ると、空一面に雲が広がり、そこから八ヶ岳や甲斐駒の稜線が顔を出していた。
青い空は稜線に向かって紫になり、雲は黄色く光っている。
きっともうじき紫がピンクになって、黄色は真っ白に光り始める好きな時間になった。
朝陽が昇る直前の暗い中、小屋から山頂へと向かう。
山頂では朝陽を見ようとする人たちが集まり、決して広くはない山頂に人の林ができた。
頂上からは南側に大仙丈ヶ岳。西側には雲海の広がった伊那盆地。
遠く御嶽山や北アルプスへの眺望も良い。富士山も雲海から頭を出していた。
予定していた時間より5分から10分押しで顔を出した太陽。
雲が厚かったせいか、空が明るくなってからが長かった。
頂上をくるくると廻り、360度、仙丈ヶ岳からの眺望を楽しんだ。
雲海から見える北アルプスや八ヶ岳の稜線はとても綺麗だった。
仙丈ヶ岳の影が雲に映っているのを見つけ、この三角形に入ってしまった街は、仙丈ヶ岳から太陽が顔を出すまでの間、薄暗い朝を迎えているのだろう。
山を削り、穴を開け、海も埋め立て、いろいろな開発をしている中で、こんな風に山の影で太陽の明るさを制限されるなんて人の力は自然とは比較にならないほど小さいのだなと感じた。
日の出も星は普段の生活でも見られる。
しかも、冬の空はパキッとしていて冷たく綺麗。
太陽が沈んでいくときの空の色も、口では表し尽くせないほど。
身の回りにある景色はそういうものに溢れていると思っていた。
ただ、仙丈ヶ岳で見る星も、雲も、太陽も、その影すらもとても大きくて力に溢れ、ものすごく大きな感動があった。
山で見る朝陽は感動する。
仙丈ヶ岳の山頂からの朝陽を楽しみ、小屋へと下りる最中、ふと仙丈小屋の壁を見た。
小屋の西側の壁は、全部ソーラーパネルが付いている。
電気って貴重なんだなと感じる景色だった。
多くの景色を見せてくれた仙丈ヶ岳は、前日の天気とは全く逆に、もの凄く綺麗な青空だった。
前日が雷で怖がっていたことがウソのような空だった。
薮沢ルートを下る
下りは馬の背を通って五合目に出る藪沢ルートを通ることに。
仙丈ヶ岳の形がとてもよく見えるルートで、晴れていれば登りで眺望が楽しめそう。
何度も振り返りながら仙丈ヶ岳を名残惜しく思う。
途中、丹渓新道への分岐があるが、今回は馬の背ヒュッテのある藪沢へ。
藪沢ルートはガレガレの小仙丈ヶ岳ルートとは打って変わって植物が豊かな登山道。
ホタルブクロや黄色い花が群生していたり、鹿の食害を防ぐためのネットが広がっていたりした。
時間こそ小仙丈ヶ岳ルートより長く掛かるが、こちらも楽しんで歩けると思う。