一不動から乙妻山へ
戸隠連峰最北端の乙妻山。
標高は2318mで最高峰の高妻山から中妻山をはさんで、戸隠連峰の先端部に位置している。
戸隠連峰はいくつもの峰が乱立し、戸隠山から北側には九頭竜山、鞍部から十三仏が祀られる峰が続く。
五地蔵山を過ぎ、六弥勒からは高妻山への眺望が良く、高妻山から北側は険しい岩場と笹の登山道が続く。
意外と人がいる感じ
長野市街から飯綱高原へ進み戸隠神社を通過して戸隠キャンプ場へ。
登山口は戸隠キャンプ場。
入口には広い駐車場には10台ほどの車が停まっていた。
キャンプ場に入る道路沿いにある駐車場に車を停め、準備を整えてキャンプ場へ続く道路を歩き、戸隠牧場へ向かう。
空は雲が多いものの明るく、前方に見える戸隠連峰の山壁には紅葉が朝陽に照らされてさらに赤く見えた。
牧場内は牛が放牧され、朝早くから鳴き声が響いている。
馬の庁舎からも馬の鳴き声が聞こえ、姿の見えないところからの大きな声に驚きつつ、牧場を過ぎていく。
モーモーが聞こえる
入口から20分ほど歩いて弥勒尾根新道との分岐に到着。
分岐にある柵を通って5分ほど、進行方向に見える山へ向かって登山道へと入っていく。
すぐに幅5mほどの大洞沢を渡渉し、大洞沢に沿って登山道は続いていく。
身の回りには笹と広葉樹が多く、木の葉が厚く頭上を覆っている。
ところどころで登山道が荒れ、倒木や木の枝が散らばっていることもあり、湿って柔らかくなった登山道が崩れやすい雰囲気を醸していた。
紅葉はちょうど良いのかも
30分ほど登り、徐々に周囲の葉の色が変わり始めた。
勾配も徐々にきつく変わり、登山道上にも青空が広がる。
最初の鎖場がある滑滝は1時間ほど。
岩の上を飛沫も上げずに流れる滝で、その真横の窪みに足をかけて登っていく。
滑滝を登り急登を折り返して5分ほどで帯岩に到着した。
帯岩って昔は鎖が切れてたと思う
帯岩は高度感のある崖をトラバースするような場所で、掛けられた鎖を伝って渡るように歩く。
窪みに足を掛けて2mほど登り、足の幅ほどのトラバースを過ぎていく。
帯岩の先には、大洞沢の上流にあたる滝。
見下ろすと崖下へ水が落ちていく。
登山道は滝をよじのぼるような段差で鎖が架けられていた。
水量が減ったようにも感じる沢を伝って登山道は続いていく。
大きな石がいくつも転がり、その隙間に水が流れる。
登山道を5分ほど登ると氷清水という水場に着いた。
氷清水が大洞沢の水源のようで、この上には水の流れが無かった。
石と土の登山道を九十九折りに登っていくと、木の葉の間から一不動の稜線が見え始めた。
沢が無くなると地味だな
一不動からの五地蔵山
登山口から1時間20分ほどで一不動避難小屋に到着した。
避難小屋から進む先を見ると、鞍部から最初の峰が高く、急登が続いているのが見える。
他の登山者が休憩しているのに混じって息を整え、一不動の祠を探した。
一不動は合流地点から20mほど進んだ先にあった。
登山道から少し外れ、小さな祠と看板が建てられていた。
登山道は笹が綺麗に刈られて歩きやすく、最初の峰へと九十九折りの登りが続く。
一不動から10分ほどで二釈迦の祠に着いた。
このアップダウンは眺めも良いし楽しい
二釈迦からは細かにアップダウンを繰り返しながら、ほぼ平坦な登山道が続く。
右側には高い崖、左側も木々が茂っていながらも崖で、尾根上は決して広くない。
吹き上げる風と雲が真下の景色を隠しているため高度感もなく、むしろ安心感を持って歩くことができた。
周囲の紅葉も散り始め、登山道上には赤い葉が散らばっている。
細かなアップダウンといっても、体力的にも負担が少なく歩くことができる程度で、樹林帯の隙間からは高妻山の山頂部を見ることができる。
雲が多い中にも、尖塔系の山頂が見えると距離が縮まっていることを見ることができてテンションが上がる。
高妻山の存在感・・・
二釈迦から10分ほどで三文殊。
たいらな尾根を進んで、小高い峰へ一気に登ると四普賢に着いた。
三文殊から10分ほどだった。
四普賢からは緩やかな登りが続く。
右側の斜面には笹が広がり、そのまま下へと落ちていく。
尾根上を進んで10分ほどで五地蔵の祠を通る。
五地蔵の周りはそれまでの狭い尾根上とは変わって開けた場所になっている。
笹が刈り払われ、休憩がしやすいような場所になっていた。
ここにテント張りたい
五地蔵からは7〜8分ほど歩くと五地蔵山山頂へ。
登山道からわずかに外れて五地蔵山の山頂部へ立つと、何も見えない真っ白な空が広がっていた。
天候が良ければ飯縄山や黒姫山などの周辺の山々が見渡せたはず。
高妻山は天気との相性が悪いイメージ。
雲があっても仕方が無いのかなと。
弥勒尾根新道合流地点を過ぎて高妻山
特に見るべきものもなく登山道に戻り、弥勒尾根新道との合流地点になっている六弥勒へ。
五地蔵から10分ほどでの通過だった。
六弥勒を過ぎると、高妻山を正面に見ながら登山道を進む。
高妻山を眺め、この登山道上でも最も迫力のある場所を歩いて行く。
雪が無い時季はアップダウンがキツい感じがする。
六弥勒を下りて七薬師へ登り返し、また下って八観音へと登り返す。
七薬師の鞍部から八観音へは一不動までの登山道を思わせるような急登を登る。
高い岩の段差を登り、登山道上から振り返ると雲がかかり始めた六弥勒や一不動への峰々を見渡せた。
登山口から2時間を越え、山深い場所まで来たかのような景色に迫力を感じ、何度も振り返りつつ八観音へと登っていく。
八観音の登りがキツい
雲が多いながらも登山道の左側には戸隠連峰が見え、遠く北アルプスが山頂部だけを雲から出していた。
十三仏を数えて登ってきた一不動はかなり下の方にも見える。
七薬師から八観音へは20分ほど掛かった。
八観音から木々の間を抜け九勢至へ向かって下ろうとすると、高妻山が大きく、山頂直下の急登が間近に見えた。
鞍部へと下り、笹の茂った細い尾根を伝って再び登り返す。
八観音から九勢至へは12・13分。
ここから八丁ダルミと呼ばれる急登に向かって徐々に登り坂がキツくなっていく。
尾根上から左手側にある戸隠山の方を見ると、山の向こうにうっすらと長野市街が見えた。
このまま雲が晴れていくことを期待し、急登へと取り付いていく。
いつも思うけど壁のような登り
登山道の両側に繁っている笹の背が高く、雲も多いために近くの山々への眺望は楽しめない。
ただ正面にある登山道の急登がまるで壁のように激しく、なかなかに高度を上げることができずに苦労の登りが続く。
踏みしめると柔らかい感触があり、石の埋まったところに足を掛けて登っていく。
ロープと鎖が張られ、それに沿っていくような急斜面。
ようやく登り切って時計を見ると九勢至から30分ほど掛かっていた。
雲が無かったら綺麗なんだろうな
ここまで登るとホッとする
山頂の稜線上に出るとなだらかな登りで、すぐ目の前に小高い丘のような登りが続いている。
そこに向かって少し登り、稜線上から左側を見下ろすと、雲の隙間から橙の紅葉が広がっていたのが見えた。
向かう先には十阿弥陀。
ここまでのやわらかな土の登山道とは対照的に、十阿弥陀の周りは高い段差の岩場。
その中に鏡のようなものが建ち、祠が置かれている。
この鏡のような物は「高皇産霊阿弥陀如来」と書かれた青銅鏡で、鏡が高妻山を空に映しているという。
高妻山を目的にしていると、いかにも十阿弥陀が十三仏の最後のような存在感で、ここが信仰の対象になっていそうな雰囲気も感じさせる。
高妻山の山頂はすぐそこで、岩が積まれたような山頂部はガスに覆われて何も見えなかった。
戸隠キャンプ場の入口から3時間20分ほど。
まわりを見渡して、眺望が得られないことを確認して、いよいよ乙妻山へと向かう。
誰も無いし何も見えないし
乙妻山へ
高妻山から乙妻山への登山道は、それまでの整備された状況から変わって人の少ない雰囲気が漂う。
山頂部直下は険しい岩の登山道で、両側とも高く切れ落ちている。
足を引っかけようものなら、転がってどこまでもいきそうな緊張感が続く。
さすが聞いてたとおりの険しさ
登山道は明瞭で、踏み跡もしっかりとあるため、険しい中でも足の踏み場に迷うことなく進んで行くことができる。
岩場を過ぎて、ひとつめの峰に登ると十一阿閦の祠があった。
高妻山までに通り過ぎてきた祠と変わらない小さくおとなしい雰囲気で、植物の根に押されてか傾いていた。
十一阿閦を過ぎるとハイマツの茂った細い尾根が続く。
高妻山の尖った形とは対照的に、丸く穏やかな中妻山を経由し、中妻山を下りると十二大日が置かれていた。
登山道上の十三仏の中でも、一不動と十二大日の2つが峰の上ではなく鞍部に置かれた十三仏で、十二大日については祠すらも無かった。
繁っている笹も、十二大日のまわりだけは枯れ草が茂ったように開けていた。
大型野生生物が出そうで・・・
両側が高くなった間を縫って、乙妻山へと登り返す。
笹や木に視界が遮られ、さらには雲に覆われている薄暗さで、ナニモノかが出てくるのではないかという気さえしてくるよう。
高妻山から乙妻山へは、やってくる人も少ないという先入観がそういう気持ちにさせるのか、葉の揺れる音にも耳を立てて行く。
ようやく乙妻山の山頂標がそこに見えるといったところで、いきなり藪を揺らす大きな音に出会った。
その大きな音はこちらが出す音にも驚いたようで、藪の中から飛び出すと信じられない早さで急斜面を駆け下りていった。
地面を叩く足音が大型車両のエンジン音のようにも聞こえ、その足の速さも、ぜったいに叶わないと思うには十分だった。
ドドドド・・・っていう感じ
乙妻山山頂
戸隠キャンプ場から3時間55分。
高妻山から30分余り掛かって、乙妻山の山頂に到着した。
決して広くはないものの、丸く穏やかで、周囲には遮る物がない山頂部だった。
その中心に十三虚空蔵の祠が置かれていた。
思い続けてやっと来た
戸隠連峰の最北端と言われる山らしく、ここから先へ続く笹の尾根は深く沈んでいて、奥裾花へと続く谷がいくつも見えた。
雲の流れが速く、ときどき山肌の紅葉を見えて気持ちが高まり、雲を運ぶ風の音がつい先ほどの野生動物の存在を思い出させるようで落ち着かず。
乙妻山から見る高妻山の尖塔系を楽しみのひとつにはしていたが、今回はココから見ることができなかった。
しばらく雲の流れを見、北アルプスも覆っている様子から待っても晴れ間は広がらないと思い、乙妻山を後にした。
満足したけど、せっかく来たのだから雲が流れて欲しかった
乙妻山からの下山
乙妻山からは登りと同じ登山道を高妻山へと戻る。
山頂から下りて十二大日から登り返し、細かな登りと下りを繰り返して十一阿閦、高妻山北側の岩場に取り付く。
この岩場からの眺めが最も良く、高妻山そのものの迫力があることも含め、奥裾花への眺めが素晴らしかった。
最高の天気とはいえないながらも紅葉が美しく、高妻山へ来たらここまで足を伸ばしたいと思えるほど。
十二大日の笹藪にテープがあったのだけど道もあるの?
狭いし高いけど、眺めはすごく良い
岩場は段差が高く、下りるのと同様に苦労をしながら高妻山へと戻っていく。
35分ほどの時間を掛けて乙妻山から高妻山へと戻ると、何人かの人が頂上で休んでいた。
十阿弥陀の岩場を通り急登を下りる。
登りでもっとも苦労した急登は、下るのにも気を遣う場所で、やわらかな土に埋まった石は、体重を乗せると落ちてしまいそうに感じる。
ただここからも景色が素晴らしく、紅葉に染まった周辺の山肌が一望できる。
すぐ隣にある黒姫山も山頂部は雲に隠れていたものの、十分なほどの紅葉が山を覆っていて、笹ヶ峰へと続く谷も見事な色だった。
登山道を下り、標高を下げていくほどに連続する峰々の眺めが変わり、橙色と濃い緑の繰り返しを見るのが楽しい。
八観音、七薬師の下りと登りを過ぎ、六弥勒へ登ってからは弥勒尾根新道へ。
視界一面をガスに覆われた真っ白な登山道を下りていく。
この時間になって紅葉が眺められて満足
大洞沢沿いに登るよりも弥勒尾根の方が木々に覆われているように感じ、紅葉の色も見事なようだった。
標高1600〜1800m付近はもっとも良い状態で見ることができたと感じる。
弥勒尾根新道はブナが多い?
弥勒尾根新道を下りて沢を渡って戸隠牧場へ。
牧場内は巨大な落とし物が多く、足元に気をつけながらキャンプ場の入口へと戻っていく。
意外と長く時間の掛かる戻り道も、人の気配と開けた気配に安心感が強い。
キャンプ場ではソフトクリームの看板と、観光で訪れる人たちの誘惑が強烈で、それらを雑念のように無視して気持ちを殺して駐車場へと戻った。
牧場を歩いたから靴の裏にはアレが付いてました