霊仙寺山からの飯縄山周回コース
長野市戸隠エリアに大きく聳える飯縄山。
2000m近い標高と四方に裾野が広がる大きな山体。
街から近く、その存在の大きさから近隣から親しまれる山のひとつ。
それだけに登山口は多く、特に一の鳥居や戸隠神社中社付近からの登山道は多くの人が歩いている。
飯縄山と稜線を繋ぎ、まるで飯縄山にある峰のひとつのようにも見える霊仙寺山。
山の東側や南側からは同じ山にしか見えないような控えめなピークでありながら、北側からは黒姫山と並んで高く聳える山のひとつに見える。
登山口には、その昔あったという霊仙寺という修験の霊場の跡地が残り、尾根を直登するようにして登山道が続いている。
霊仙寺山なんて目にしても意識しなければ何の山だか分からないことも多いと思う
このふたつの山は稜線が繋がっているだけに縦走をすることができる。
眼下に広がる北信地域の景色を見ながら霊仙寺から飯縄山へ。
周回コースを辿ることにした。
登山口は飯綱スキーリゾート。
ゲレンデから霊仙寺山の登山道へ合流し、下山は原田新道からスキー場へと戻る行程。
1000mほどの高低差と10キロ未満の距離、稜線を辿るコースの形状は、まるで北アルプスの常念岳と蝶ヶ岳の縦走を小さく短くしたような印象を持った。
北アルプスは久しく行ってない
飯綱スキーリゾートの駐車場はスキーにも登山にもシーズンオフで、一台の車も停まっていない。
ふだんなら開放されているトイレもしっかり施錠され、明るさのない建物は閑散とした雰囲気だった。
準備をしてゲレンデ内の舗装路を上る。
そう長い距離ではなくとも、ゲレンデを登ることを思うと、数字以上に感じる勾配と高さが続くのだろうと思えた。
5分ほど
5分ほど歩いてトレッキング遊歩道の看板が掛けられているのを見つけると、その横には飯縄山と霊仙寺山を示す標識が建っていた。
その矢印に従って右へ。
矢印のほうへ目を向けるとゲレンデの先にピンクテープがグルグルに巻かれていたのが見えた。
怪しい
ピンクテープは登山道を示すもの。
登山道を示しているとしても、あまりに目立つ巻き方と、ゲレンデ内であること、矢印が書かれているわけではないこと、事前に見た地形図ではコースは上にあるように見えたこともあり、ピンクテープはスルーしてゲレンデを登ることにした。
そうはいってもゲレンデの反対側に目指す登山道があることは明かなので、右側にある目印らしき物は見逃さないように。
ゲレンデを5分
5分ほどゲレンデの急坂を登ったところで、またピンクテープが見えた。
見ると斜面には踏み跡のようなものが見える。
あれは登山道なのか?
まだ霊仙寺山への登山道が近いとは思えないものの、だからといってコースを間違えるのも避けたい。
霊仙寺山の登山道がある尾根は右にある。
ゲレンデを見失わないこととを意識して、とりあえずテープに従ってみることにした。
テープの通りに進むと疎らな林の斜面をゲレンデに沿って踏み跡が続く。
ここは登山道なのかもしれないし、作業用の通路なのかもしれない。
そう思えるほどゲレンデに近く歩きやすい。
するとすぐに木々が開けた斜面に出た。
ゲレンデ側にはまたしてもピンクテープが派手に巻かれている。
正しくはココが登山道への入口だったか?と思えた。
開けた斜面には踏み跡とピンクのテープ。
見るからに登るために印が付けられている。
先にはリフトの柱が見える。
踏み跡を抜けるとリフトの降り場に着いた。
その向こうには、またしてもピンクのテープ。
あれは信じていいものだろうか。
地形図の登山道では、もっと上部のゲレンデから霊仙寺へ近づくように印が付けられている。
こういう人の気配しかしないテープは怪しさしか感じられない
いったん腰を下ろして朝の空腹を満たしつつ、落ち着いて考えることにした。
見るとテープの先には、点々とテープが巻かれているのが見える。
それに沿って踏み跡もある。
ただ踏み跡は2・3本あるように見えないこともない。
どっちにしても歩けるようだった。
リュックを担いでテープの通りに歩いてみる。
このあたりから笹が多く、足元には雪が残るようになってきた。
遊歩道なのかもしれないし、作業用通路なのかもしれない。
ゲレンデから離れて尾根へと向かっているのは分かる。
このまま道が通じていれば、霊仙寺山の登山道に合流できそうだった。
踝から足首ぐらいの深さの雪で、道筋にはカモシカのような足跡が先行している。
ゲレンデから離れた瞬間に人から獣の気配に変わったよう。
でもそれに心地良さを感じる。
森の静けさ的な落ち着いた感じは良い
20分ほど
いくつかの窪みを越え、残雪を踏みしめて20分ほど。
登山道のような道に出た。
いままでのような作業用通路のようなものなのか、遊歩道なのかと思いながら手元の地形図を見ると、どうやら霊仙寺からの登山道を合流したようだった。
ただテープが巻かれた印だけで標識がないところ見ると、正規のコースでは無かったのかもしれない。
出たっぽい
霊仙寺山の登山道
霊仙寺からの登山道と合流すると、上へ向かって登山道がまっすぐに延びている。
折れ曲がっているところも少なく、尾根をひたすらまっすぐに。
登山道の右側は深い谷になっており、ここまで歩いてきたゲレンデ側は比較的、土の盛り上がりも窪みも浅かったのだと感じた。
やはりスキー場が作られるところは地形的にも穏やかなのだろう。
まっすぐに登る登山道にはうっすらと雪が残る。
数センチほどの雪でも落ち葉や登山道が水分を含んで泥濘む。
ずるずるじゃないか
10分ほど登るとゲレンデへの標識が建っているのが見えた。
正規にはここがゲレンデから登ってきた合流地点なのだろう。
木々の間からもスキー場の急斜面が見える。
合流地点を過ぎると、登っていくほどに徐々に残雪が増える。
登山道の窪みにかかわらず雪が全体を覆っているため、地形によっては踏み抜くことも多く、踏み抜いた瞬間にグリップを失って足を滑らせることも増えた。
できるだけ雪のないところを選びながら登山道をまっすぐに登っていく。
こんな雪の登りは久しぶり
20分ほど登ると木々が疎らになっているところがあった。
尾根の形状のため一段高くなり、ここには背が届く木が少ないようだった。
隙間から景色を眺めると駐車場が見える。
ここまで長く歩いた気がしていたが、こう見ると思っていた以上に歩いた距離は短いようだった。
カケスがガーガーうるさい
登山口から1時間20分
目印のひとつとして考えてた「霊仙寺山山頂まで1時間」の標識には、登山口から1時間20分ほどかかった。
ここから1時間で着くという行程なら、できればそれを巻く時間で到着したい。
ただここから先は登山道だけではなく斜面全体を覆うような残雪だった。
目の前がピカピカする
どこが登山道なのかの判断ができないほどに雪が残り、登山道らしく見える場所、見るからに木が空いているところ登る。
気が付くと白樺のような真っ白な木々が多くなり、枝には1枚の葉も残らずに陽が差し込む。
足元の雪に反射する陽射しが眩しい。
これはそろそろ振り返ると、眺望が素晴らしいのではないかと期待値を高めて振り返る。
期待していたとおりの高さと眺め。
ただ期待以上に笹が茂って視界を遮っていた。
思っていたより笹が多いな
ここまで登ってきたところで、雪の上に踏み跡が残っていた。
これを足がかりに雪を蹴り込んでステップを作っていけば、きっといままでよりも簡単に登ることができるはず。
きっと踏み抜きも少ない。
ときどき笹や白樺を避けて折れ曲がるところはあるものの斜面を直登していく。
ときどき陽当たりの良さからか笹が顔を出していると、かなりの確率で踏み抜いて、膝まで足を落としたり、足を滑らせて太モモまで埋めたり。
えい!と力を込めて、ずぼっとなるのはダメージが大きい
登っていくほど木々は少なくなり、背中に受ける陽射しや雪から反射する陽射しも暑く眩しく、雪が緩んでいる場所や硬く締まっている場所の差が大きくなり、踏み抜きが多くなった。
ただ木が疎らになってきた分だけ、振り返った眺めは良い。
暖かな日だけあって景色の霞んで遠くまで見渡すことはできない。
ただ広く見える空は気持ちが良かった。
ツライ
標識を見てから1時間
「山頂まで1時間」という標識を見てから1時間ほど登った。
ここまできてようやく飯縄山の山頂が見えた。
あの山頂部へ行くつもりで登ってきたものの、ここまで時間を掛けて苦労をして登ってきたことを思うと、霊仙寺山で引き返すのも選択肢かもしれない。
だいぶ近づいたはずの山頂は、まだ見えてこない。
近そうに見えて、実はまだ遠いのだよね
さらに5分ほど登ったところで、雪が解けて草木が露出している場所に出た。
地形から登山道が露出しているようだった。
その傍らには石仏が置かれ、そこには「奥山姫命」と刻まれている。
いかにも信仰の山という雰囲気だった。
こんなものがあるのか
石仏の裏側に回り込むように登山道を進むと、ふたたび一面雪の斜面。
しかも勾配はいままでよりも厳しく、足を滑らせて転ぶようなことでもあれば、体が引っかかってくれる木々も少ない。
これは足を滑らせるだけではなく、踏み抜きで体勢を崩すようなことにも気をつけたい。
振り返ると木が疎らになっているおかげで景色が見えやすく眼下に広がっている。
これはなかなかの眺め
雪の斜面にはうっすらと踏み跡のようなヘコミが残り、それを追って登ることができそうに見える。
斜面の左側には木々が開けているところも見え、どうやら登山道があるようにも見える。
どっちを登っても山頂は間近。
見えているテープと踏み跡に沿って登ることにして、木々のほうへ近寄っていくと飯縄山の山頂部が間近に大きく見えた。
やっと分岐に来た
登山道上にうっすらと残る雪を踏んで5分ほど、飯縄山からの縦走路の分岐に着いた。
ここまで2時間半、霊仙寺山に向かって矢印が指すほうへ。
少し登ると広く平らな場所で霊仙寺山の山頂が見えた。
霊仙寺山
スキー場から2時間35分
スキー場から登り始めて2時間35分、霊仙寺山の山頂に着いた。
入口が分からずに不安を感じながら歩いたゲレンデと、踏み抜きの急登に苦労した登山道。
思った以上にペースが上がらなかった。
ここはとても良い
やっと到着した霊仙寺山は期待していたとおりの好展望で、そのうえなんの音も聞こえない落ち着いた雰囲気。
飯綱の高原内を走るバイクの音だけが小さく響いてくる。
春霞で遠くまで見渡すことができないことを差し引いても、妙高山などの頸城三山が間近に見えることや、高妻山の大きさが感じられること、野尻湖や斑尾山、周辺の里山を見渡せる眺望は十分に満足いくものだった。
久しぶりにいつまでもいたい感じの山頂だ
陽射しは暖かで、穏やかに吹く風が少し肌寒い。
あまりの静けさに、いつまでも座り込んでいたいような気もしながら、稜線の向こうに見える飯縄山にも興味が沸いてきた。
このまま登ってきた道を下りたい気もしながら、ゆるい雪の斜面が少し急すぎる。
予定通り稜線の登山道を辿って飯縄山へ向かうことにした。
なにげにちょっと肌寒い
稜線の縦走路
霊仙寺山から飯縄山へは、70mほどを一気に下りてから緩やかに登り返す。
分岐点を過ぎてからは特に下りの角度がきつく、滑りやすい地面と泥濘む雪が怖い。
雪を踏み抜くにしても登りより下りの方が膝などをぶつけた場合の衝撃が強く、できるだけ痛い思いもせずに安全に下りたい。
足を滑らせながら一気に下りきると、小さく登り降りを繰り返す登山道に変わった。
木陰が多いためか、まだ雪が固くガリガリとした感触のところも多い。
標高が高いし日影は凍っているのだね
雪が固く崩れないことに安心しながら、なんとなく足を乗せたところで踏み抜いて肝を冷やしたり、折れた木で道を塞がれていたり、平坦なように感じられた登山道もそれなりに苦労がある。
稜線上は意外と細く、左右が急な斜面になっていた。
雪や木が茂っているためか、狭さを感じるところも少ないものの、夏季ならおそらく木の根の段差が高く、左右に避けるところも少ないのだろう。
一回足を踏み外して転びそうになって怖かった
霊仙寺山から30分
霊仙寺山から30分ほどで急な角度の登りが見えた。
この先が飯縄山の山頂部で、そう高くは感じられない。
霊仙寺山から70m下っていたが、登り降りを繰り返しながら40mほどは登り返していたようだった。
そこまで茂っていた木々は、なぜか斜面のあたりでは疎らになり、暖かな陽が当たっていた。
急斜面とはいえ多くの踏み跡が残り、階段のように登りやすくもなっている。
登山道の左右ではゴジュウカラが何羽も飛び交って、とても穏やかな雰囲気だった。
振り返ると、ついさっきまで座り込んでいた霊仙寺山が離れて見える。
10分ほど掛けて急登を登り飯縄山の山頂に到着。
霊仙寺山と対照的に、幾人も山頂を楽しんでいた。
飯縄山
スキー場から3時間19分
スキー場のスタートから3時間19分、霊仙寺山からは44分掛けての飯縄山山頂だった。
飯縄山といえば長野市近郊の山の中でも眺望が素晴らしく人気が高い山のひとつ。
この日も10人ほどが山頂で腰を下ろしていた。
天気の良さを思えば、少ないといえるほどの人数だったのかもしれない。
人がいっぱいって飯縄山らしい
飯縄山の山頂から南にはもうひとつの峰があり、一の鳥居登山口へと登山道が続く。
木の枝が茂る西側には、戸隠連峰が連なり高妻山がひときわ高く見えた。
霞が薄ければ、四阿山や浅間山、北アルプスなどが広がるのが見えるのが、天候の良さと引き替えに仕方なく感じるところだった。
下山
飯縄山からの下山は飯綱スキーリゾートへと下りる原田新道を使う。
東側の斜面にある登山道で、尾根に沿って一直線に下りるように作られている。
山頂に近い序盤では背の高い木が少なく、足元に笹が生えているだけ。
向かう方向に景色が開けて、とても気持ちが良い。
しかも雪が残っているために膝の負担もなく真っ直ぐに下りていくことができる。
こんなに気持ちの良い下山路って他にあるか?
ただ注意が必要だったのは、踏み跡が消えていたため、斜面のどこを下りるのが正しいのか分かりづらく、少しでも方向を誤ると笹藪のなかで雪を踏み抜いてしまうことだった。
上から見ると、地形によって雪が解けているところが疎らで、ところどころで登山道があるように見える。
下りるべき方向が分かっていなければ尾根の左右にずれてしまい、笹の踏み抜きから戻ることも難しくなるような印象を持った。
違うところへ下りてしまいそう
くわえてとにかく真っ直ぐに下りていく登山道は、雪の上から登山道らしい段差などを見つけるのも難しく、無雪期に登って知っていた方が明らかに楽だという印象だった。
15分ほど下ると尾根が細くなり、ようやく木々の間に道らしいものがあると見分けやすくなった。
ただひたすらに真っ直ぐに続いているのは変わらず、尾根に沿っての急斜面が続いていく。
下りた分だけ雪が緩み、段差での踏み抜きや、泥濘が増えた。
間近に下りることができるコースだと思ってはいたものの、なかなかに大変な下山路になりそうで、早く雪のない高さまで下りてしまいたかった。
ズボズボだし、埋まったところで岩にスネぶつけるし
経験があって知っている登山道ではないので、雪があっても登山道から逸れることのないようにテープに沿って下りるつもりでいても、本当に登山道なのかを疑うような段差にも差し掛かった。
整備前の季節だから仕方が無いのか、元からそうなのか、枝が茂って足元を覆っていたり、折れた枝が塞いでいたり。
テープが高い位置に括り付けられていたのは、何か意味があるのか・・・いつの間にか逸れてしまったのか・・・
不安を感じるところもあった。
本当に登山道なのか??みたいな
下りの序盤30分に雪が残っていたことや、段差が高かったこともあり、一度に体力を消耗したような気持ちになりながら、やっと雪のない登山道まで下りてきた。
ただ真っ直ぐな急斜面は変わらず、下に向かって踏ん張る太モモが痙ってくる。
途中、作業用の林道のようなものが登山道の脇にいくつもあり、重機が入ってくる様子があるところなどは飯縄山らしさも感じるようだった。
1時間
1時間ほど下って、ようやくゲレンデを左手側に見ることができた。
地形図通りに大きく左に折れて小さな川にかかった橋を渡る。
ゲレンデを横目に見ながら、どこでスキー場に戻るのかと心待ちにしながら、緩やかになった登山道を下りていくと、木々が開けてテープがグルグルと巻かれているところを見つけた。
ただまだ登山道は続いているようで、まっすぐ進んだ下にもテープが見える。
これはゲレンデに戻るべきか、登山道を進むべきか・・・
地形図では真っ直ぐ進んだ先に車道がある。
ただそれが駐車場に戻る最寄りではないようで、確実に戻るにはゲレンデを歩いた方が良さそうにも思え、ぐるぐる巻きのテープへ向かった。
ゲレンデはススキのような植物が多く生え、その固い茎が短く刈られていた。
向かう先に駐車場が見える。
ただ登る前にインターネットで目にしていた「ゲレンデは上らない」という情報が気に掛かっていた。
ゲレンデを上らないのは、間違う可能性があるからか、違う理由があるからかと。
ゲレンデを上らないというのは、こういうのがあるからか
登りで見かけた建物と霊仙寺山を指す標識を見つけ、やっと戻ってきたという気持ちになった。
登りでの踏み抜きも、下りでの急斜面も思っていた以上に辛く大変な行程で、とても大きな安心感だった。