残雪の常念岳へ一ノ沢から日帰り
標高1,260mの一ノ沢登山口から常念岳へ。
林道を歩き登山口に着くと正面に横通岳の稜線が見える。登山口で備え付けられている登山届けを提出して常念岳へ。
林道は開通したばかり。
登山道の整備はされていない状態で、冬の間に荒れて大きな石や枯木が散乱した状態。
雪解け水の水流も多く、一見すると登山道ではなく沢に入り込んだのではないかと見間違うほど。
草木が押し倒されたところが登山道に見えることや、見間違いしやすいところが序盤でいくつか見られた。
10分ほどで山の神の鳥居を通過。
この辺りまで来ると分かりづらさも解消して、分かりやすく歩きやすい。
脇を通過する池はとても透明度が高く、魚や生き物がいれば見えるのでは無いかと思うほど。周りの木々が水面に映っているようにも見える。
やがて雪解けで水量の増した一ノ沢に沿って登山道が進んで行く。
冬の間に水で流されたのか登山道の下がすっぽりと抜けてしまっているところもあり、足を乗せるのが躊躇われ、笹藪を捲いて進むところもあった。
雪で押しだされたと思われる大きな石が登山道に転がっている。
30分ほど歩いたところで登山道の周りに残雪が見え始めた。
周りの笹藪だけに見えていた残雪は、すぐに登山道上にも見られるようになり、シャリシャリとした感触を踏みしめながら、雪と石と土を繰り返しながら上へと進んで行く。
大滝を過ぎたのは登山口から45分ほど。
もともと夏季でも水の流れている大滝は、登山道の一部が崩れているようだったので段差を避けて脇を通っていく。
大滝を過ぎてからしばらくは登山道にも雪解け水が多く流れ、沢を登っているかのよう。
石と木の根を踏み分けながら、水を避けていく。
登り始めて1時間ほど経過したところで大きな石が転が涸れた沢を通過。
対岸には階段が掛けられ、傾斜を登っていく。
登り切ったところから下りに変わり、見渡すと登山道は一面の雪。
ここから常念乗越まで雪を踏みしめながら登っていく。
行く先には近くなった常念乗越。
徐々に木の葉も疎らになり残雪で不明瞭になっている登山道を進む。
冬期間に付けられたと思われる踏み跡も若干見えるものの、ここまでの暖かさで雪が解け、トレースなのかもともとの凹凸なのかは区別が付けづらい。
登山道のテープを見つけても、意外と歩かれておらず踏み固められてもいないために踏み抜きも多い。
雪を踏みながら木の間を抜けていくと、一ノ沢の大きな雪渓が目の前に見えてきた。
すぐ前には水量の多くなった沢が流れており、雪の上から渡れそうな石を探す。
雪と沢との段差も1mほどあるので、沢へ下りるためにも慎重に。
ここで踏み抜くとそのまま沢に落ちる可能性もある。
無事に沢を渡り対岸の雪に乗って少し歩くと今度は一ノ沢を渡る。
夏季の整備された状況なら橋が架かっているが、今のところは渡れそうなところを見つけて進んで行く。
一ノ沢から上部はなかなかの難所で、木が茂っているところが多く、もともと段差も多いので踏み抜きやすい。
斜面へと登る雪面も、深い穴が空いているすぐ横を通ったり、雪に埋まって見えなかった段差があったりと、体力を奪われるばかりか体勢も崩しやすい。
今のところはテープもはっきりと巻かれてはいないことや、テープまわりのルート自体が冬季に使われていないために木が茂っていたりと歩きづらさがある。
本格的に雪渓に乗るまでは、顔の周りの枝と足元の踏み抜きに苦労しながら登っていく。
広い雪渓に出ると、それまでの枝や踏み抜きは無くなり歩きやすく変わる。
ただ下には沢が流れているので、できるだけ雪量の多いと思われるところを選びながら。
一ノ沢は左右に高い斜面があり沢が流れ込んでいる地形なので冬季は雪崩が起きやすいようで、この雪渓でも一面がデブリのようにゴツゴツとしていた。
いかにも雪がなだれ込んだような状態のところも。
沢から30分ほどで雪渓を過ぎ、胸突八丁の入口になる階段へ到着した。
時季的にはまっすぐに雪渓を登っていっても良いところ。
今回はあえて夏と同じ階段を通ってみた。
キレイに整備された階段を登り切ると、斜面をトラバースするように作られた狭い登山道には、木の枝や草の茎が散乱している。真下は20〜30mの崖なので注意して歩きたい。
胸突八丁は、この階段と狭い登山道からスタートして、九十九折りに常念乗越まで続くルート。上から雪渓を見渡してみると、夏季の九十九折りのルートはあまり使われていないような様子。雪の斜面をトラバースするであろう場所もあるので、今回は夏季では使わない沢を登ることに。
いま歩いているところとは反対側の斜面にあるルートで、雪が積もった時季は歩くことができる。勾配がきつくこの斜面自体が雪崩になる可能性もあるところ。
残雪期のしっかりと締まった雪質なのでその危険も少ない。
胸突八丁のルート上から飛び降りるようにして雪の上におり、反対側へ向けて雪の上を渡って行く。
ここからは勾配もきつく滑落の可能性もあるのでアイゼンを装着。
一歩ずつステップを切りながら登っていく。
本格的な積雪期にはこの雪渓も雪崩を起こしていただろうと思われ、表面的にはシャリシャリとした雪でも爪先を蹴り込むとなかなかに固い。
中盤あたりに近づくともっとも斜面がキツく、踏み跡も見えるようになったため、古い踏み跡をさらに蹴り込むようにしていく。
時間を掛けながら登っていくといつの間にか樹林帯を抜けたようで茂っていた木が疎らになり、稜線が近くなってくる。目指す常念岳も近い。
登山口から3時間ほどかけて常念乗越に到着。
乗越ではここまでの苦労が報われるような景色が広がる。
目の前に雪を積んだ槍ヶ岳。その稜線を辿ると大キレットと北穂高岳。
右には登山口から見えていた横通岳。左側には常念岳。
風が強く当たる場所というせいか雪は無く、夏のようなガレ場の登山道が続いていた。
常念乗越から常念岳へ
ガレガレの登山道を常念岳へ。夏季と同じような登山道が続く。ところどころに浮き石があるため、足の置き場には注意しつつ、槍ヶ岳を楽しみつつ登っていく。
下からは夏と同じに見えていた登山道も少し登ると日影には氷が張っていた。登山道に被さるような氷の張り方なので、ハイマツを踏まない程度に脇を通って氷を避けていく。
高度を上げていくほどに眺めが良くなり、槍ヶ岳からの稜線も見える範囲がどんどんと広くなっていく。振り返るといつのまにか常念乗越が低く遠くなり、常念小屋は小さく見える。横通岳の先にある大天井岳や水晶岳も。
所々にある氷を避けながらゆっくりと登り、上寝乗越から40分ほどで三股からの登山道と合流した。
ここから先は一面の雪。
しかもこの氷は風に吹きさらされているせいか固く締まり、アイスバーンのようになっているところも。
乗越で外していたアイゼンをもう一度装着して山頂を目指していく。
すぐそこに見える山頂。
左側は切れ落ちているので近づかないように登り、勾配が緩くなると踏み抜きが多くなった。
雪の下にはハイマツがあるために踏み抜きしやすいのだろう。
常念岳山頂
一ノ沢から4時間8分、常念岳に到着した。
残雪期の雪渓歩きは初めてで勾配のキツさに体力を奪われた印象だったが思いのほか暖かく、麓の安曇野では25度近くあったらしい。
山頂からの眺めは相変わらずの絶景で、槍ヶ岳や穂高岳の稜線、乗鞍岳とその先に御嶽山。近くに見える蝶ヶ岳。北へ目を移せば横通岳から常念山脈の稜線と裏銀座。
小さな雲が多く浮かんでいたので西の空の遠景は良いとはいえなかったものの、安曇野や松本平をよく見渡せた。
雪の少ない暖かな残雪期は、思いのほか雪と木々のコントラストが鮮明で隆々しさがある印象だった。
常念岳からの下山路
下山は登りと同じルートをピストンで。
山頂から乗越までは若干の氷があるものの夏のような印象で歩くことができた。
常念乗越からは勾配のある雪渓を下りるので、カカトを差しながら滑落に注意をして下りていく。
登りの時点より気温が上がり雪が緩んでいたおかげで足がよく刺さり歩きやすく安全に下りることができた。
ただ雪の緩みは踏み抜きやすさにも繋がり、登りでも苦労した一ノ沢の雪渓下では木の間や段差の踏み抜きが多かった。
体勢によっては踏み抜いたまま転倒ということもあるので十分に注意したい。