万仏山の山開き
標高1200mあまり、登山口から1時間ほどで山頂に登ることのできる万仏山は、毎年5月8日に山開きが行われている。
福島地区の上部にある福島神社から道沿いに石仏が立ち並び、林道から登山口、山頂への途中にある万仏岩まで33体の石仏に番号が書かれた札を置いていく。
万仏岩を通るコースは、一般的な登山道でありながらも細尾根と急な登りが連続する難易度の高いコースで、山開きに先んじてロープ張りなどの整備が行われている。
山開きに合わせて山頂へ登りやすくなるのも整備が行われているからで、ロープやチェーンの無い登山道は緊張感が高すぎて敢えて登ろうとは思えない。
久しぶりにこのコースを歩く機会ができた
5月8日、福島神社には山開きに参加する人たちが集まる。
予定の時間よりも少し遅れて駐車場に着くと、すでに出発をした後で完全に出遅れていた。
準備を整えて神社の横から農道へと歩き始めると、傍らにある最初の石仏には「一番」の札が置かれていた。
飯山市の眺めを下に見ながら、農道を上っていくと5分ほどで阿弥陀堂の横まできた。
ここから先は杉林の中に入るため、しばらくの間は眺望が無くなる。
落ちた杉の葉が濡れて道路の上は滑りやすい。
車が擦れ違うには狭く、山の形に合わせて曲がっている道路。
13番目の石仏まで来たところで、未舗装の旧道へと入った。
林道をショートカットするように、林の中をまっすぐに登っていく。
草の生えた土の道は歩きやすい。
なかなかグループに追いつかない
5分ほど登ると、林道に合流して舗装路に変わる。
そこからさらに5分ほど登ったところで登山口に着いた。
やっと追いついた
小さな沢を渡って万仏岩へ登山道が続く。
高く盛り上がった土の上に置かれた石仏にも番号どおりの札を置き、万仏岩までひとつひとつを見ながら登る。
行者尾根との分岐は、登山口から12分ほど登ったところだった。
石仏は行者尾根との分岐点で26番目。
登山道は徐々に急な登りに変わってきた。
花立岩という巨大な岩まで来ると石仏は30番目。
巨岩の上には木々が茂っており、そのなかでも桂の木が一際大きく聳えていた。
登りながらの話しの中で「桂の木は落ち葉の季節になると甘い香りがする」と聞き、まだ新緑の枝葉に近づいてみる。
煮た砂糖のような香りが微かに感じられ、その瞬間に近くにいた人同士で顔を見て笑い合った。
花立岩の桂の木を過ぎると、登りの傾斜はさらに角度を増す。
朝までの雨と、湿度高めの天気で足元は泥濘んで滑りやすい。
万仏岩
福島神社から1時間5分ほどで万仏岩のお堂に着いた。
巨岩壁の真下にある小さなお堂と、その傍らにある石仏が33番目になる。
岩の窪みの奥には空海の石仏が祀られている。
このあたりを見ると信仰っぽい雰囲気がアリアリとしてる
しばらくお堂の前で休憩の時間があり、このあとはどうするのだろうかと様子を伺っていた。
天気は悪い。
雨粒は落ちてこなくてもいつ降り出すかも分からないような、ともすれば雨はもう降っている。
ここから先の登山道は、万仏岩までの傾斜とは比較のできない角度と長さ、岩の細尾根が連続する。
事前の連絡では万仏岩までの可能性もあると聞いていた。
山頂までの細尾根
お堂を見て左側に万仏岩の上部へ登る急斜面がある。
鬱蒼とした緑に囲まれた斜面で、湿度の高い日には草木が強く香る。
落ち葉の積もった柔らかな斜面で、仮に乾いていたとしても地面は脆く崩れやすい。
滑るんです
急斜面に加えて幅が狭く、張られたロープを頼りに登っていくため、一列になって先に登っていく人の様子を見ながら後を付いて行く。
滑りやすい地面と高い段差を登って中盤あたりまでくると、さらに角度は厳しく足を掛ける段差が小さな斜面に変わる。
鎖を留める間隔もひとつずつが長いため、先に登ったひとの合図を待って次のひとが登るのを始めるような状態だった。
しばらく周りの緑を見回したり、登る方向を見上げたりして自分の順番がくるのを待つ。
ひさしぶりに登る万仏岩からの急勾配は、記憶していたよりも段差が小さく滑りやすさを感じた。
滑りやすさは雨の影響も大きいのだろうが、掴みどころのない急登は鎖やロープがあって良かった。
みんなの手前、冷静でいるけれど大変でした
登り始めれば3分ほどで尾根上に出る。
行者尾根との合流地点になる鎖場の終わりは、人がふたり並ぶことも難しいような狭さ。
ここからがこのコースの楽しさが味わえる。
ただこの先には記憶していた印象よりも狭く高い登山道が見える。
狭いし高い
登った尾根を右側に登っていく。
足元は両足が並べて置ける程度。
地面の柔らかさが不安をそそる。
左側には細い枝が迫り出した急斜面。
右側は崖下に今登ってきた急登の鎖場が真下に見える。
足を踏み外すことができないと思うと緊張感の増す登り。
短い距離の間に一気に高さを稼ぐような登山道で、迫り出した木が体勢を崩させる。
以前に登って分かってはいても、簡単な登山道ではなかった。
リュックが引っかかるのだよね
木の根が巻き付いたようになって段差ができ、高さのある登りを終えると岩の上に出た。
岩の上に育った木を避けてロープに沿って行くと、狭い斜面を横切る。
足の踏み場が狭く高度感があるだけに眺望が良く、反対側の尾根や麓の田畑が見渡せる。
手を突くような急激な登りを数メートル過ぎて細尾根の上に出た。
細い尾根の両側には木々が茂っているため崖下は見えず、枯葉の落ちた尾根が踏み跡になって赤く目立っていた。
この赤い地面の両側は崖
尾根を登っていくと段差を下りて蟻の塔渡りが見えた。
茂った緑の中に狭い岩の足場。
直進すると一枚岩の尾根を登る。
左に尾根を下りると岩の肩にを歩き、窓岩と呼ばれる窪みに着く。
窓岩と呼ばれるこの場所は、岩が刳り抜かれたようになって反対側が見える。
そこに大日如来が祀られている。
万仏岩までに見られた石仏とは形状が違い、大日如来は人型をしていた。
狭くて風の通り道にもなっていそうな場所にちょこんと鎮座している姿は可愛らしい。
窓岩を横に見ながら、尾根の上の登山道に向かって斜面を登る。
この登りも急傾斜で、手を突いたりロープを掴んだりして登っていく。
そこから尾根をトラバースするように登山道が続き、高い段差を登ったところで見晴岩に着いた。
晴れていれば麓の街並みや妙高山、斑尾山から北へ続く関田山脈が見渡せる。
真っ白な水蒸気しか見えない空では、誰も足を止めていなかった。
見晴岩からはさらに細尾根を登る。
両側は相変わらずの藪で、足元からの崖下は見えづらく尾根の幅も狭い。
木の根が張りだしていたり、濡れているところは滑りやすかったりで、晴れているとき以上の嫌らしさがあった。
右手側の谷を挟んで屏風岩が見える。
平たい岩が壁に張り付いたような形で、その表面を緑の蔦が這っている。
いくつかの奇岩のあるコースの中で屏風岩は見応えがある。
細尾根を終えると山頂への取り付き。
梯子岩という斜面に飛び出した階段のような岩を登る。
岩の上は段差が高く、斜面の角度もきつい。
張られているロープに頼りながら登っていく。
5分ほど登って梯子岩を登り切った。
右へ向かえば南峰、左へ向かえば山頂へ向かう分岐で、天候のこともあって誰も南峰へ向かおうとはしなかった。
万仏山 山頂
分岐からは1・2分、少し登って平坦な場所に出た。
葉の向こうには山頂にある大きなブナの木が見える。
福島神社からは1時間57分、万仏山の山頂に到着した。
飯山市と木島平村、野沢温泉村の境に位置する万仏山の山頂。
全体が木々に覆われているため眺望が無く、この日の天候に関係なく眺望は僅か。
雫の付いた葉や、雨露で鮮やかな新緑を見て楽しんだ。
眺望はなくても山頂っていうだけでノンビリしたい気になる
ただ雨足は弱まるわけではなく、むしろ登っていたときよりも強く降り始めたようだった。
もともとここでしばらく時間を過ごす予定ではあったものの、早々に万仏岩まで下りることになった。
下山
下山は登ってきたコースを折り返す。
登りと下りとでは足元の様子は代わり、足元には体重が乗る分だけ滑りやすさも違う。
躓いたときにも登りでは掴む物が目の前にあっても、下りでは足元にあることのほうが多く、そうなると高さのある細尾根では下りの方が注意を払うところが多い。
泥濘む梯子岩を下り、細尾根を渡って見晴岩まで下りる。
蟻の塔渡りは通らずに、登りと同じように窓岩を見た。
万仏岩の横を下りるロープの斜面は、斜面になれたのか雨があがったせいなのか、登りほどの歩きづらさを感じずに下りることができた。
万仏岩のお堂まできて、ようやく安心のできる登山道まで下りられた。
お堂から下の安心感