雨首への直登と竜ノ落としキレットの岩壁を独鈷山へ
上田市街から西前山からの登山口へ。
独鈷山の西前山登山口は、塩田平を別所温泉方面へ向かう。
南側に独鈷山の岩峰を見ながら、塩田神社、中禅寺方面へ。
独鈷山の登山口への案内板に従いながら、虚空蔵堂の先にあるゲート前に3・4台の駐車スペースがある。
塩田神社を左側に見ながら登山口に着くと、ゲート前にはすでに1台の車が停めてあった。
ゲートも以前から少し変えられたようで、登山者用の小さな扉が取り付けられている。
登山者用の扉って前は無かった。
大きな扉を開けるより楽で良い。
独鈷山の登山口といえば、遭難者が多いことでの注意喚起。
ゲートに括り付けられた注意文を見ながら準備を整え、ゲートを開けて登山道へと入っていく。
気軽に行こうっていう登山道では無い感じ
急な登山道を分岐へ
登山口からの序盤は、コンクリートで舗装された登山道を歩いて行く。
5月とはいえ濃い緑が茂る季節になって、風が入りこまない谷間の樹林帯は暑い。
左右に大きな岩が転がり、右側に沢の音を聞きながらコンクリートの急斜面を登っていく。
テンションが上がらなくて。
一人でいくせいなのか、予定のせいなのか、久しぶりだからなのか。
急なのってツライだけ。
しばらく歩いたところでコンクリートが切れて、土と落ち葉の柔らかな登山道に変わった。
急な斜面は相変わらず。
左右の斜面には一杯に茂った緑から青空が透けて見える。
登山口から10分ほどで、前門址に着いた。
登山道の脇に広く空いた場所で、奥には沢が流れ落ちている。
鎌倉時代、北条氏打倒のために泉親衡が挙兵した際、その郎党だった青栗七郎が独鈷山に城を築いて立て籠もったとされている。
山城は落城してするが、当時の遺構は沢山池からのコースにも見られ、登山道から山の歴史を知る一端になっている。
歴史を知ると楽しみも増えると思う
前門址を過ぎると登山道を左へ折れ、右へと折り返して、斜面をトラバースするように急勾配の登山道が続いていく。
左側の斜面から石が落ちてきそうなほどの雰囲気で、実際、落ちている巨石には「落石注意」と注意書きが掲げられていた。
登山口から20分ほど経過して、雨首との分岐点に到着した。
直進の登山道は「迂回路」と書かれているが、どう見ても迂回路の方が一般的。
木に掛けられた案内板にも雨首方面は中級以上でロープなどの使用が薦められている。
さ。いよいよ。
分岐から竜ノ落としキレットへ
登山道を雨首へと通じる竜ノ落としキレットへ。
一足で跨げるほどの小さな沢を越え、急斜面を直登するように登っていく。
急な斜面には、柔らかな土を踏みしめて埋まるように足跡が付けられ、周りを囲う杉林は林業のためかペンキで印が付けられていた。
ところどころに雨首への矢印が掲げられているため、それに沿ってただ真っ直ぐに登っていく。
滑り落ちるようなところではないものの、とても急な角度での直進で、一般的なコースではないのだろうと思えてくる。
あいかわらずの急登で嫌になる
雨首の分岐から10分と経たないところで、直登の登山道は右へと折れて山の斜面をトラバースするように変わった。
乾いた土の斜面は力強く踏み込めば崩れてしまいそうで、急斜面にバランスを取りながら歩くのも気を遣う。
斜面のトラバースはすぐに終わり、さらに急な斜面の直登に変わった。
転び方によってはかなり落ちると思う
斜面の手がかりにトラロープが張られているが、鎖と違って滑りやすく、強度も無いため掴まるには頼りない。
ルートの案内程度のつもりでトラロープに沿って登っていくと、杉の向こうにさらに急な岩壁が見えてきた。
下から見上げてその先が見えるものではなかったが、おそらくここがコース上の最難関、竜ノ峰キレットの岩場だと思われる。
登山道は岩場を避けるように右へ。
急斜面をトラバースしながら右側を見下ろすと、斜面は木の奥へ見えなくなるほどに下へと続いている。
滑落するような場所ではないものの、足を踏み外して転がり落ちれば、数十メートルは落ちていくのだろう。
木にペンキで書かれた矢印に沿ってロープを伝いながら、枝の張りだした急斜面を登り、細い尾根上に出た。
来た。キレットまで。。
前よりも時間が掛かった気がする。
右は雨首、左は鉄城山へと続く細尾根。
竜ノ落としキレットと呼ばれる場所で、木が茂っているために眺望や高度感はないものの、間違いなく尾根のどちらも危険な高さの急斜面になっている。
山頂方面になる鉄城山へと進む前にまずは雨首へ向かう。
竜ノ落としキレットから雨首
雨首は独鈷山の南側に突き出る岩峰。
山頂より200mほど標高が低く、狭い岩の上からは上田市を一望する。
前に来てるし遅い感じがしたから別に見なくても良い景色だったのだけど。いちおう。
昔、上田市塩田付近が砂鉄の山地としてされていたころ、独鈷山の鉄城山は産出する山として信仰を集めていたという。
雨首から谷を挟んだ向かい側の尾根上にある竜王山には八大竜王という大蛇が棲み、鉄城山は休憩する場所とされてきたとのこと。
その大蛇の頭に似ているといわれる「雨首」という名前も由来が窺い知れるよう。
竜ノ落としキレットを右へ、雨首方面へと足を向けると岩の露出した細尾根になり、まるで首筋でも登っているかのような地形を歩く。
5分ほどで雨首の巨岩に着き、そこに掛けられた縄梯子を登ると雨首の上に立つことができる。
お尻がぞわぞわする感じの高さ
雨首は周囲には何も無い、まさに岩峰といった雰囲気。
上田市を一望して周囲の山並まで見渡せるような眺めの良い場所で、独鈷山の山頂に次いでベストなビューポイントといえる。
決して広くは無いことと、掴まるようなものがないため、安心して休憩ができる場所とはいえないものの、山頂とは違う静かな景色を楽しむこともできるだろう。
やはりアレが鉄城山の岩壁か
鉄城山への岩壁と尾根道
雨首から独鈷山の山頂方面を向くと、真下にある竜ノ落としキレットの先に岩の壁が見える。
すぐ近い場所に近づいてきたような山頂のおだやかさと、あの岩壁へと続く登山道の厳しさとが対照的な印象を受ける。
雨首の縄梯子を下りて登山道へ戻り、竜ノ落としキレットから鉄城山へ向かう。
狭いし。高いし。
キレットから尾根を右へ巻くように続く登山道は、ふたつの足を置くこともできないような幅。
積もっている落ち葉の下に地面があるのかも怪しい。
急激な斜面の右側を見下ろしながら、山側に突いた左手に意識を置き慎重に登っていく。
正面には徐々に大きな岩が見え、壁のような様相に、あの岩壁はどこから登るのだろうかと恐る恐るロープに沿っていく。
尾根を巻いていた登山道は元の尾根上に戻るように3mほど急激に登り、その先を見通すと、尾根上にある巨岩にトラロープが垂れ下がっているのが見えた。
下から見るとぼた餅みたいな岩だ
陽が空かした新緑の緑が爽やかで、そこに吹く風も気持ちが良いが、どう見てもその巨岩は巨岩というよりは岩壁で、大きな岩峰に貼り付いて登れといわんばかりにロープが架けられている。
色褪せた古いものと新しいものと、ふたつのトラロープが架けられ、どちらも太さは10mmほどではないかと思われる。
ナイロン製のトラロープ10mmで、体重を支えられるほどの強度があるかというと甚だ疑問で、このロープは登攀用ではなく登山道を示した物だと思うようにした。
ただでさえ強度が心配な上に、どのような縛り方がされているのか分からず、陽にさらされての劣化も考えられる状況で頼りにするには心配なものだった。
どの山でもそうだけど、トラロープなんて信用したらいけない
事前の情報で、岩壁左側に踏み跡があり、そこから岩壁を避けて巻いていくこともできるようなものもあったが、現地で見た分息では、それも滑落の恐れが考えられ、確かにロープはあったがそれなりの難路であることは見てとれた。
岩壁に取り付く前に高さを確認し、ロープを辿りながらも足を置く場所、手が掛けられる場所を確認し、自分が登る場所をイメージする。
腕の力だけで体を持ち上げたり、手を離してバランスが取れるような状況でないことは一見して分かるので、とにかく思ったとおりに登れるように、右から左から岩壁を見てその形と登り方を思い浮かべた。
イメージ大事
岩壁は2段に分かれ、上まではおそらく12・3mほど。
下の段は3・4mで、登り切ると1平米ほどの段に腰を下ろすことができ、さらに上の段が続く。
尾根のように丸みのある岩壁で、木々にも覆われていないために、とにかく周囲がよく見えてしまう。
風が吹くとどんなに柔らかな風でも風の動きから緊張感が増し、掴まるところを確認するために上を見たつもりでも、周囲の景色が視界に入ってしまい高さを感じる。
1段目は途中から岩壁を右へと逃げることができ、体を起こして登ることができたが、上の段になるとそれもなく、とにかくトラロープの通りに登る。
これはもう2度と来ない場所だと思い知り、体が谷側へと反ってしまわないように岩を掴み、ロープを辿り登っていく。
足の置き場所には困らなかったので、登攀技術を身につけ、準備がしっかりとできていれば無理なく登ることができるのだろうと想像した。
冷や汗すら出ない
岩壁を登り切り、振り返ると雨首が下の方で突き出ていた。
登ってきた岩壁を見下ろして確認することもできないような高度感で、登ることができた安堵感と、まだ解けない緊張感とが混じった感覚だった。
岩壁を登ると、そこからはおだやかな尾根が続く。
緩やかなアップダウンと踏み跡のない柔らかな土の感触のなか、鉄城山へと向かう。
2・3分のところに掛けられていた看板には「竜ノ落としキレット」という文字と「この先進入禁止」という赤文字。
やはり・・・という思いと、ならばなぜ雨首への矢印があるのかを不思議に思う。
着いた
鉄城山は登山口から1時間6分ほど。
岩壁からは5分ほどのところだった。
特に眺望があるわけではなく、ただ木々に囲まれたピークのひとつ。
ただあの岩壁を登ってきたあとでは感慨深く、ここを通過するために調べたことや準備したことが思われる。
山頂へ続く細尾根
鉄城山からは緩やかに下っていく。
丸みのあるおだやかな尾根から岩が積み重なったような細尾根に変わり、木々に覆われているものの両側に落ちていく谷は深かった。
岩峰が連立する山らしく細かなアップダウンが多く、下っては登り、また下って徐々に山頂へと近づいていくよう。
一般道に来た感じでホッとする
鉄城山から15分ほど進んだところで西前山からの登山道と合流。
「迂回路」と書かれていた、どちらかといえば一般的なコースといえる登山道との合流だった。
合流したあとの登山道は、それまでの細尾根からは一変して丁寧で安心感のある雰囲気になった。
他の登山者との擦れ違いにも十分な幅と登りやすい段差があり、残り時間を示した看板があった。
合流から5分ほどのところで岩の段差が高いルートに差し掛かった。
ロープが架けられているものの、そう難しい場所でも無くコースに沿って登っていく。
岩場の上にある岩峰からは、雨首より高い位置からの眺望が楽しめる。
ここも広い場所ではなく掴まる物のない峰の上になるが、それまでの細尾根のせいか高さも感じないまま景色を楽しむことができた。
岩峰を通過すると細尾根を下り、高さのある急斜面を登る。
木の根が張りだしているのを階段のように踏みながら、急斜面の細尾根を登っていく。
この細尾根も嫌な感じはする
この斜面を登ると山頂はすぐ目と鼻の先。
緩やかな下り坂を過ぎて登り返すと、宮沢や沢山池からの登山道との合流地点に出た。
この合流地点は広く、認められていれば幕営をするにも十分なほど。
冬季はここに霧が溜まって霧氷が楽しめる。
山頂はここを左へ折れて3分ほど。
山頂に来たけれど、今日のメインはここじゃなかった
独鈷山山頂
登山口から1時間37分、鉄城山を経由して独鈷山の山頂へ着いた。
いくつもある独鈷山のルートの中でも難易度が高く、気軽には踏み入れることのできないルートは、それまでの独鈷山と違った印象と達成感だった。
春霞の中で360度見渡す景色は、北アルプスや妙高方面まではすっきりと見ることができないものの、近く浅間山の存在感が大きく、蓼科山からの八ヶ岳がよく見えた。
美ヶ原は王ヶ頭のアンテナがよく見えた。
陽気が良いためか山頂で景色を楽しんでいる人も多く見られ、登りやすさと景色の良さが伺えるようだった。
山頂をグルッと一周しただけで下りる
下山
独鈷山からの下山は合流地点から西前山方面へ。
登りでも通ってきた細尾根と岩峰を折り返して、雨首への分岐を西前山方面へと進む。
山頂に近い尾根上では、葉の無い枝ばかりだったものの、少し下りたところでは緑が多くなっていた。
左右へと折り返す九十九折りの登山道で、その斜面も急で角度があり、丸太での木段が作られていた。
やっぱりムズムズするのかな。杉林って。
10分ほど下ると、鮮やかな新緑だった周辺の様子は、濃い緑の杉林に変わった。
足元にはシダ植物が生え、登山道の急な角度も緩まった。
雨首との分岐点を通過して登りと同じ登山道を登山口へ。
高低差や標高以上の歩き堪えのある独鈷山になった。