万仏山の縦走路
飯山市の里山、万仏山。
飯山市と木島平村、野沢温泉村の3つの市村の境に近く、尾根が瑞穂福島の集落を囲むように裾を伸ばしている。
万仏山は立ち並ぶ石仏を数えるようにして登る万仏岩経由の登山道のほか、山頂へと至る尾根を切り開いて作られた複数の登山道がある。
中でも新しく刈り払いと整備がされた、城の峰の尾根伝いを通って万仏山へ行くことにした。
飯山市と木島平村との境に沿うような尾根で、ちょうど一年ほど前、まだ刈り払いが行われる前にも歩いていた。
背丈を超えるほどの笹と、クモの巣、地形図と遠景でしか確認していなかった、細かな地形の変化に苦労した尾根道だった。
稲泉寺と小菅神社を結ぶ信仰の道だとテンションを上げて藪に向かってた
2020年に整備をして歩くことができるようになったものの、本来は笹藪が茂る尾根で、雪に埋もれた冬季だけのコースとして歩かれていた。
棚田から登山道へ向かう
福島地区の上部にある阿弥陀堂の傍らに、5台ほどの車が停められるスペースがあり、準備を整える。
夏の午前中は、親指大ほどのアブがいくつも飛び交い、車にバチバチとぶつかってくるほど。
落ち着かずに荷物を背負い、登山口へ向かって林道へと入った。
巨大アブがひどい
集落から何体もの石仏が続いている。
登っていく林道にも石仏が置かれ、それぞれに形や名称の違う様子を見て楽しめる。
釜石と書かれたふたつの巨石を右手側に見て、2・3分ほど林道を進んだところで分岐に着いた。
左は万仏岩を通過して登る従来の登山道。
今回は城の峰へと登るため、分岐を右に曲がって、ひたすらに林道を下りていく。
この林道の下りが長く、杉林に覆われて眺望がないばかりか、緩やかで単調なために退屈感が拭えない。
分岐から20分近く林道を下り、どこまで行くのだろうかと不安になってきたところで、登山口の文字が見えた。
登山口を示す標は小さく、道路の端に建てられている。
矢印が示す方を見ると、土の斜面にロープが垂れ下がっているのが見えた。
これか?
ロープを足元に見ながら斜面に足を進めて行くと、登山靴のソールが柔らかく沈み込む。
落ち葉が積もって腐葉土になっているのか、あまり人が入らずに踏みしめられていないからか、フワフワとした感触が気持ち良くも、脆く崩れそうにも感じられた。
優しく足を置く程度だったら、足元を滑らせてしまうこともあるのだろうと。
斜面をトラバースするようにして登り、少ししたところで尾根の登りに変わった。
両側は緩やかな下りの傾斜で、その頂点に沿って登山道が作られているよう。
木の間を縫うように踏み跡に沿って登っていく。
巨石があると、なんか昔からの遺構か?みたいに思う
10分ほど登ったところで、木の間を縫うようにして登ってきた景色が変わり、背の低い葉に囲まれるようなところも増えてきた。
草とも木とも区別がつかないような背丈の緑が茂っている。
登りはだんだんと傾斜がキツくなり、崩落したような岩場を過ぎていく。
崩落跡といっても、苔が生し、草の生えた状態で、岩の間にも土が流れ込んでいた。
頭上が明るくなり、目指す尾根や城の峰が近い雰囲気を感じながらも、傾斜が急な角度に変わっていき、ところによってはロープが張られているところもあった。
木々が開けたところでひと息付くと、戸狩スキー場と鍋倉山のある関田山脈が見えた。
樹林帯の中を折り返しながら徐々に高度を上げていく。
登る先が明るく、雰囲気からも城の峰と尾根が近い。
運動不足か・・・なかなかペースが上がらない気がする
城の峰からの尾根道
城の峰は標高1000mにも足りない尾根の先端にある峰。
その昔、狼煙台のような櫓が設けられた犬飼城があったとされる。
現在では台地の上に草木が茂った場所になっているが、周辺に空堀がいくつもあり、当時の様子を少しながら伺うことができる。
ここへ至る登山道は他に2本あり、木島平村へと下りることもできる。
着いた
城の峰からは緩やかに登っていく尾根を馬曲山へ向かっていく。
本来は2m以上の高さにも茂る笹藪。
刈り払われたばかりで歩きやすくなった林の中を進んで行く。
なだらかでトンネルのように緑に覆われた尾根は快適で、ほどよく吹き抜ける風がちょうど良い。
天気予報では35度近くまで気温が上がることなど、この尾根では縁がないことのようにも思われた。
歩きやすい。風が良い。
ところどころで、緩やかに登り下りを繰り返す尾根道、太腿の疲労が地味に効いてくる。
城の峰から馬曲山までの尾根の登りは、麓から見る限りでは長くなく、整備されていれば簡単に到着するようにも見えるほど。
目視の距離感で30分もあれば・・・と想定をするところだったものの、昼近い時間になり、弱まった風のせいもあってか、足を停めて暑さをしのぐこともおおくなった。
樹林帯が深いため、直接陽射しを受けることはないものの、それがかえって風の通りを悪くしているようにも思える。
ただ足を停めていれば涼しく、動き出すと滝のように汗が流れるという繰り返しだった。
アップダウンが。地味に。
登り下りを繰り返しながら、小さなピークをひとつ越える。
なだらかに下りながら、ふたたび登りが始まる。
馬曲山は南北に長く平たい山頂部を持っている。
そのため登り切ってしまうと平坦な尾根が続く。
いくつかの登りがあり、そろそろ馬曲山か?と思いながらも、その平坦さがやってこないため、まだまだ先かと思い直し、下りては登ってを繰り返す。
尾根の肩を歩くように踏み跡が続くところも多く、場所によってはどこでも歩けそうなほど草が少なくなっていた。
目安のひとつにしていた馬曲山までの距離感を見失いながらも、それらしい平坦な尾根が続き、大きな木が1本立っているのが見えた。
深い緑の中で、1本だけ存在感が強く、木肌にはいくつもの爪痕が付けられている。
ピンクのテープが巻かれているところから、ここが馬曲山の山頂部だと思われた。
この木の疵痕って熊の爪だと聞いた
万仏山の取り付きから山頂へ
馬曲山を過ぎるといったん下る。
小さなピークをひとつ越えて、ようやく万仏山への取り付きになる。
長く歩いた尾根も、ここまでやってくると前方にチラリと万仏山らしき山が見え、だいぶ近づいてきたような印象があった。
尾根から外れると急斜面になっているところも多く、そんなところも万仏山らしいという印象に感じられた。
苔の生した岩場を下り、ピークと万仏山との鞍部に下りる。
ここから南峰へと登り返して万仏山の山頂稜線へ。
鞍部には登山口への看板が掛けられていた。
城の峰からのコースは、尾根が長く途中でエスケープができないと思っていたので、万仏山へ取り付くところで登山口へ戻ることができるのはとても助かる。
おかげで馬曲山の尾根が手軽になるばかりか、万仏山そのものの登りも複数の登山道が楽しめる。
この時点で暑さと尾根の長さに少し辟易としていたこともあり、このエスケープルートの看板にはとてもありがたさを感じた。
とっても良いところにあるなと思いました
鞍部から万仏山への登山道は、ここまでの登山道の中で最も急な角度の登りになる。
左手側は木々が茂りながらも脆く急峻な土の斜面になり、向こうには万仏山の通常ルートが見え隠れする。
前方は茂った緑で視界が狭く、切り開かれた足元だけを見る。
10分ほど登り、枝葉の開けたところを振り返ると、馬曲山と同じぐらいの高さまで登り返しているように見える。
向こうには高社山、天気予報通り雲も多くなってきた。
この開けた場所を過ぎると、このルートの核心部的な登りに差し掛かる。
だんだんと急激さを増していた左手側の斜面は、いよいよ崖と呼べるほどの角度に変わり、足元も両足が置けるほどの幅も無い。
木の根を踏み枝を掴んで通過すると、その先には巨石の細尾根。
高度感はないため通過の恐ろしさは感じないものの、やはり平均台のような足元は気を遣う。
大変だけど「来た」という感じがする
岩場を渡ると角度は一気に増す。
大きな角度で左右に折れながらの登りで、ロープが架けられている。
ロープは伸縮するため、掴んで体重を預けるのには向かないものの、バランスを保つ助けにはなるので、柔らかな足元の急斜面では頼りにしたくなる。
だんだんと茂った緑の先に明るさが見え、ようやく山頂の稜線上に到着した。
鬱蒼と茂った雰囲気で、右には南峰、左は山頂の分岐になっていた。
いったん南峰へ向かって景色を楽しむ。
登山口からは2時間ほどでの到着で、すっかり陽が高く日射の暑さが辛い時間になっていた。
暑い
南峰からは木島平村と、飯山市の常盤地区周辺が見下ろせる。
雲が増えてきているため、妙高山や斑尾山といった上信越近隣の山は隠れてしまっていた。
万仏山山頂
南峰から山頂へは5分ほど。
いったん南峰を下りて、登り返してすぐに万仏岩からの登山道と合流し、そこからすぐに山頂へに着く。
登山口からは2時間7分での到着だった。
暑かった
眺望はほとんどなく、周り一面が緑色の山頂部になっている。
僅かに開けた合間からも、雲に隠れた妙高山が見えるだけだった。
山頂から先へは北峰と、岩岳尾根や小菅山へと通じる。
しばらく身の回りの緑を眺めた後、万仏山を下り始めた。
下山
下りは万仏岩へ。
山頂から数歩下りて、分岐を右へ。
梯子岩の急な段差を下りていく。
この下山路は細尾根を通るうえ、夏季は枝が張りだして茂っているために荷物を引っかけやすい。
枝と緑が登山道を隠す代わりに細尾根の高度を感じることなく歩くこともできる。
樹林帯で眺めがないうえに急な下り。
梯子岩の高い段差を下りると、橋のような細尾根を渡っていく。
左側の谷を挟んだ向こうに見える屏風岩を眺め、進むと見晴台に着いた。
初めて万仏山の見晴台まで来たとき、ここから先の登山道が枝に隠れていたために見つけることができず、諦めて帰ったということがあった。
何度来ても、見晴台では当時のことが思い出され、山頂まで少しだったという気持ちになる。
下りでは難度が上がる蟻の塔渡りも、木が茂っているおかげで全く高度感を感じることも無く、難なく通過し、それよりも段差の高い急な下り坂で気を遣うような状況だった。
ところどころでザックに枝を引っかけたり、枝を跨いだり。
万仏岩の上部まで下りてきて、行者尾根との分岐に到着すると、いよいよ暑さが厳しく感じられた。
登りでも暑さがあったものの、下りではそれ以上。
暑い
万仏岩の下へと下りる鎖場は、斜面が急で地面が近いせいか湿度も高く、加えて茂った葉が視界を遮って歩きづらい。
鎖とロープを頼りに、柔らかな土の斜面を下りていき、なんとか万仏岩まで下りてきた。
山頂からは30分ほど掛けて、ようやくといった印象だった。
万仏岩まで下りると高度を感じるようなところもなくなり、安心感のある登山道が続いていく。
ところどころに石仏が立ち並び、万仏山らしい見慣れた雰囲気。
ただ下りるほどに暑さが感じられ、なかなかに大変な下山路になった。
距離や高低差以上に大変だった