雪の杣添尾根から横岳へ
南八ヶ岳の稜線へと続く杣添尾根の登山口は、別荘地の海ノ口自然郷にある。
10台ほどの車が停められる駐車場がある。
別荘地だけあって除雪は行き届いており、前日から降り積もった雪もキレイに片付けられていた。
駐車場から少し下ったところに登山口がある。
登山届けのポストの横にある「富士見岩遊歩道」の看板に従って登山道へと入っていく。
序盤は別荘地の道路をいくつも渡りながら、ときに別荘の脇を通り、敷地内を歩いているのではないかと思うほど間近なところが登山道になっている。
木々に囲まれた中、緩やかに別荘地を登っていくと20分ほどで広い道路のような場所に出た。
夏季ならばここから登り始めることができるのではないだろうか。
雪の積もる道を少し下り、案内板のある横からふたたび登山道が始まる。
いっぱいの緑に囲まれた登山道は八ヶ岳らしい雰囲気で雪の感触も気持ちが良い。
5分ほど歩いたところで橋を渡ると杣添尾根の急登が始まる。
乾いた滑りやすい雪を踏みしめながら登山道を登っていく。
歩くには大変な登山道も、周囲を見渡せば雪と緑との組み合わせに目を奪われる。
登山道はだんだんと尾根らしく雰囲気が変わり、左右は斜面が落ち、下から風が雪を巻き上げるように吹き付けてくる。
東の空からは太陽の明かりが見え、チラチラ止まっていた雪が止むことも期待できる。
右に折れ左に折れ、急勾配と緩斜面を繰り返して登山道が続き、ときどき強い風が吹いて枝から雪が落ちてくる。
登山口から1時間45分ほどしたところでトレースが消えた。
吹き付ける風と落下する雪のせいか、それまで続いていたトレースが無くなり、足を踏み出すと膝のあたりまで埋まるほど。
見えるところにリボンがあるため道に迷うことはないものの、ときどき深く沈む雪に不安もわき上がる。
木々の合間から空が見えると、樹林帯の終わりが近いのでは無いかと期待をしながら、なかなか見ることのできない前方の様子が気になりながら、足元を慎重に確認しながら登っていく。
樹林帯を抜けたのは登山口から2時間半ほど掛かってから。
思いがけずトレースが消えていたことと急登で苦労した樹林帯だった。
木々を抜けたら稜線が見えるだろうと期待をして我慢の登りだったところが、樹林帯を抜けたところでも厚いガスのために先の見通しが無かった。
ガスの中に隠れた稜線は、まるでものすごく高い位置にあるようにも思え、この雪を進んでも辿り着けないのではないかという気にさえなってくる。
尾根上のトレースはすっかりと消えて、雪の上に僅かに見える凹凸が踏み跡のようにも思える。
風の当たる尾根の上なら雪も固く締まっているだろうと思っていたが、この時点ではフカフカのまま膝上下まで足を埋めながらの登りだった。
左側は深く落ちた急勾配の斜面で、一部雪庇のように迫り出しているところも見える。
樹林帯のときよりも狭くなった尾根上のルートを選びながら先を目指してく。
目指す三叉峰は唐突にガスの中に見えた。
天候に恵まれていればもっと早くに確認ができたはず。
どこまでこの登りが続いているのかと不安を持ちながらの登りも、目指すところが見えたことで気持ちも前向きに変わる。
三叉峰直下の登りは、杣添尾根で最も急勾配で難易度の高い場所だった。
ガチガチに凍ってアイスバーンのようになった急斜面で、アイゼンをしっかりと差し込み、前かがみの姿勢を保ちながら上を目指して行く。
膝付近の深さのラッセルを続けて来たあとでの急登は足に堪え、少し進んでは体勢を保ちつつ息を息を整えた。
三叉峰に到着
登山口から3時間40分。
急登とラッセルで思いがけず時間を掛けてしまった登りだった。
稜線に出るとこれまで以上に強い風が吹き付け、周囲が真っ白に覆われてしまうほどに天候が荒れていた。
横岳の最高地点の奥の院は、さらに稜線を北側へと移動したところにある。
ここまできたら奥の院を目指したい気持ちもあるが、強風の中、三叉峰との間にある鞍部を渡ることも気持ちが引けたので、早々に下山することにした。
天候が良ければ諏訪地域を見渡せ、八ヶ岳を一望するような素晴らしい景色だったはず。
下山
下山ルートは登りと同じ杣添尾根を降りる。
登りで苦労した直下の急登は下りの方が難しく、バランスを保ちながらアイゼンを確実に刺していく。
ここで足を踏み外したら止まることができないことは簡単に想像ができる。
登りで大変だったラッセルは、下りではいくぶん楽になったものの、たまに踏み外して太腿まで埋まることもあり、樹林帯に戻るまでは油断ができない雰囲気だった。
高度を下げていくと、徐々に空が明るくなり、天気予報通りの空が見えるようになった。