積雪期の独鈷山へ
いくつもの峰が並び形成している上田市の独鈷山。
上田市街の西側に屏風のように尾根を広げ、特徴的な存在感のある風景が見える。
麓からの高低差は高くは無く、麓からは山頂部にある1本の木が目視できるほど。
山の東西南北に登山口があるのも特徴的で、その登山道もそれぞれに特徴のあるものになっている。
今回は西側の沢山池から登る沢山湖登山口から。
独鈷山の一般登山道の中では最も長く、尾根を伝って山頂へと向かっていく。
なかなかに物々しい通行止め
登山口周辺の道路は崩落の危険があるため通行止めで、池の畔にある管理棟の駐車場に車を停める。
5台ほどが余裕を持って停められるほど。
準備を整えて、通行止めのバリケードを縫って登山口へ。
ソールほどの雪が残り、踏みしめるとバリバリと固まった音が聞こえた。
右側には岩壁、左側は崖のように切れ落ちた藪、ガードレールがあるものの緊張感が高まるような舗装路を歩き、駐車場から3分ほどで登山口に着いた。
登山口からは斜面をトラバースするような登山道が続く。
落ち葉の積もった、ふかふかした柔らかな土が湿気て崩れやすい感触を足元に感じる。
踏みしめると雪と氷で固まった土がバリバリと音を立てた。
積雪量はうっすらとした程度でも踏み跡を見失いやすく、ときどき立ち止まって先の登山道を見つめる。
沢山湖コースは数年振りで、最近の大雨の影響からかところどころ崩落したところもあり、記憶とは少し違った印象を受けた。
それだけに、先が分かっているところと、ふとしたところで登山道を見失うところがあった。
気を抜くと、ちょっと違うところを歩いてる
登山口から15分ほど登ると、山頂まで120分という標識が建っていた。
踏み跡を見失うような不明瞭なところが度々あるにしても、枝にはピンクのテープが巻かれ、木にもペンキでマークが付けられているところも多い。
動物の足跡が紛らわしい
杉の林の中を抜け、登山道は沢に沿って左に折れると、勾配が一気にきつく変わった。
歩きやすい程度だった斜面は、固い雪の急登に変わった。
歩きながら上部を見てはテープを見つけて、それに沿って登っていく。
しばらく登ると、杉の樹林帯に入った。
枝葉が茂っているためか杉の下では雪が薄く、凍った地面が見えているようだった。
杉を抜けると、また積雪量のある急斜面に戻る。
足首ほどの固い雪を踏みしめながら、右手側には沢があり、左手側には壁のような急斜面が続いている。
登山道の先にある尾根を目指して先を見ると、まだ高くしばらく急登が続きそうな雰囲気。
尾根に近づいていくほどに雪が増えていくようだった。
なんか先が明るくなってきた
尾根の影からは陽が射し、もうじき尾根に出るという雰囲気が在り在りと感じられる。
場所によっては踏み跡が雪に消され、急斜面を直登するようなところもあった。
登山口からは1時間が過ぎたほど。
ようやくといったところだった。
尾根の右側には尾根が続いていくのが見え、手前に立ち入り禁止の看板が建っていた。
山頂へと向かう尾根は左へ。
木々の間からは蓼科山が見える。
尾根を登っていくと、すぐに左側に見えるピークへのトラバースになった。
柔らかな土の上に積もった雪は脆く、深くまで谷が続くのが見える。
崩れそうな雪のトラバースって怖い
ひとつめのピークを過ぎて、次のピークへ向かって下りる。
すぐ間近に次のピークが見え、下りきったところで登り返す。
ふたつめのピークの上には、山頂まで60分の看板が建っていた。
まだ行く先には尾根が続いている。
急な斜面を下りてピークの鞍部へ。
ふたたび登り返して尾根上に立つ。
標高はそう高くなった意識がない中、積雪量は増えたような気がして、膝下ほどまで雪に埋まる。
独鈷山なら雪は少ないと思ったのに
枝が開けているところでは、北側の景色が見え、子檀嶺岳や、その奥に聳えている北アルプス。
朝の天候からは雲が増えてきたようだった。
午後になるほど天候が崩れるって予報だった
尾根の途中から、山の斜面をトラバースするように登山道が曲がり、またしても脆い雪の上を渡って行く。
踏みしめると落ち葉のようなフカフカとした感触があり、それがまた登山靴のグリップ力を感じられずに不安を煽る。
たまたま雪の塊が足に当たって斜面を落ちていくを見ると、みるみる加速して大きな塊になって落ちていく。
尾根上は急登では無くても、尾根から逸れた斜面は崖のように急勾配になっている山の形を思う。
尾根の下に見える谷はけっこう深い
大きな岩が切り立っているところまで200mほどのトラバースが続く。
テープに沿って岩の影に回り込むと、吹きだまりになっていたのか積雪は膝を超えるほどになった。
くわえて、そこまでの固くなっていた雪質ではなく、新しいフカフカとした雪の感触。
回り込んだ先の急登で、新雪になっているとも思いも寄らず足を持ち上げるのに苦労した。
なんとか雪を踏みしめて急登の尾根を登り、振り返ると一段高くなったような尾根が見えた。
先にはまだ尾根が続く。
登ってきた感じがする
登り切ったところで少し進むと、急激な段差を下りるように登山道が変わる。
無雪期ならロープや鎖が架けられている岩の段差。
雪に埋まって手がかりが無いばかりか、岩の段差も見えない。
記憶していた地形と足を置き、雪の中から引っ張り出したロープを手がかりにして、あとは岩に身を任せるように体重を預けて段差を下りる。
滑り止めの効かない新雪の足元で、谷側へ体を向けてしまうことのないようにという思いだった。
段差を過ぎると、何ごともなかったような穏やかな尾根が続く。
左右は切れ落ちた急斜面でも、尾根上は丸くて広い。
ほんの5分もない距離を進み、登山道に沿って尾根の先にある岩へ上がると、眺めの良い細尾根の上に出た。
そこは木々や枝が無いほどに急な崖の上で、蓼科山がよく見える。
ただ真下は数十メートルも下まで落ちるようなところで、積雪もあって安心ができない。
早々に通り過ぎて、穏やかな斜面の尾根へと入って行く。
そこでは風が強く吹き付ける場所なのか、松の枝が多く折れて落ちていた。
いったん下りて寺屋敷跡を過ぎ、尾根を登り返していくと、登山道は右へとトラバースをするように変わった。
ここでは踏み跡がハッキリと見えるものの急斜面のトラバースで足の置き場は狭い。
きっと溶け掛かっている踏み跡も、踏みしめた途端に崩れるとも限らず、やはりトラバースは安心ができない。
ときどき踏み跡を見間違えて、登山道から上下に逸れつつ、斜面を渡りきり宮沢コースと合流することができた。
やっとここまで。
山頂直下の広場のような平坦な場所はすぐそこ。
西前山コースとの合流地点で、独鈷山山頂まで3分ほどの地点。
足跡もない山頂への登山道を登っていく。
沢山湖の登山口から2時間10分。
独鈷山の山頂に到着した。
着いた
独鈷山山頂
独鈷山の山頂には松の木が1本生え、その根元に小さな祠がひとつ。
宮沢から登ると十二支が1体ずつ置かれて、山頂で最後の亥を見ることができ、その祠が松の下にある。
以前より整備されたのか木が開けているようで、特に西側の眺望が良くなっているように思えた。
南側に蓼科山が見え、東には浅間山と四阿山、北には上田市街や子檀嶺岳。
北アルプスも見渡すことができ、なんといっても槍ヶ岳が見えたことが印象的だった。
しばらく山頂で時間を過ごしていると、ロープを垂らしながらバリエーションルートを登ってきたという男性に行き会った。
話しを聞くと何度も独鈷山へ登って一般ルートから立ち入りの注意喚起がされているような尾根まで歩いているという。
登山口から6時間も掛けて登ってきたそうで、帰りもバリエーションルートを下りる予定のため、ロープを掛けて下りる準備をしながら登ってきたのだという。
一緒に登っていた仲間は認知症のために、もう一緒に登ることができないと話していた。
下山
山頂から下りて広場のような場所を西前山へと下りる。
登ってきた沢山湖とは反対側へ下りるように、広い場所を北側へと下りていく。
新雪で踏み跡はなく、ところどころに見えるテープと、何度か歩いている記憶を頼りに下っていく。
尾根上に立つと、独鈷山らしい細尾根で左右が高く落ちている。
やっぱり西前山が独鈷山らしい感じがする
5分ほど下りたところで、ひとつめの鎖場に差し掛かった。
もともと掛けられている鎖やロープは雪に埋まり、そもそも鎖を掛けるほどの急な勾配は雪で滑りやすくなっている。
ロープも雪と一緒に握ってしまうと、まったく手がかりにならないほどに滑る。
枝にも手を掛け、おそるおそる急斜面に足を下ろして、足元を確かめていく。
なんとか下りきったところで、幅1mも無いほどの細尾根が続き、新雪を踏んで行く。
できるだけ尾根から逸れることのないように。
細尾根からは見晴らしも良く、独鈷山らしい急峻な尾根が間近に見える。
小さなピークに登り、山頂を振り返ると松の木が見え、間近に感じられた。
ピークを下りるのも雪で登山道が見えない。
ロープが掛かっているので、段差が高いことは分かっていても、足の置き場を考えながら慎重に下りた。
雪に足を取られる
登山道はさらにロープの急斜面が続き、雪で滑りやすい段差が多い。
木が茂っているので、手を掛けるところには苦労しないものの、油断をしていると足を滑らせて体が引っ張られる。
なんとかロープの斜面を下り、斜面が緩まると安心感があった。
ところどころで細尾根は続くものの、足元が悪いわけではなく歩きやすい。
ホッとした
雨首との分岐点を過ぎると、一気に山を下りていくような急斜面に変わる。
うっすらと雪の下に見える登山道に沿って九十九折りに下りていく。
厚い木々の間を縫うように歩き、眺望も無く、ただ足元と枯葉を見て標高を下げていく。
10分ほど下りていくと杉の林に差し掛かり、そこまでの急な下りは緩くなった。
登山道の滑りやすさも無く、下りていくほどに林道のように登山道が広く変わっていった。
退屈な道ほど安心感がある
西前山の登山口近くまで下りてくると、登山道上の雪は足首ほども無くなった。
山頂からは35分ほど。
登りや尾根上の苦労からは考えられないほど、手軽な印象で下りてきてしまった。
西前山から沢山湖までは舗装路を30分ほど。
緩やかなアスファルトの登りは登山道よりもキツく感じ、なかなか駐車場が遠く感じられた。
ここから帰るのが大変